5-1-12 保安安全監視機器

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1.12.1 可燃性ガス・毒性ガス検知器

1. はしがき

 産業の発展に伴い各種の可燃性、毒性の物質による災害事故の発生が多くなっている。 これら災害事故例の原因を大別してみると、各種設備から漏洩した可燃性ガスによる爆発や火災、毒性ガスによる中毒事故等である。また、各種設備には生産、貯蔵、輸送、消費、廃棄等の諸設備があり、設備需要の増加に伴って漏洩の危険性が増して来ている。
 ここでは各種設備から漏洩した可燃性ガスや毒性ガスの濃度を、早期に検知して、防災措置を迅速に行うための保安安全監視機器について述べる。

1.1 可燃性ガス

 可燃性ガスは、空気と混合した場合、その混合割合が、ある範囲になると着火源があれば爆発を起こす。
一般高圧ガス保安規則第2 条では、39 種類のガス及びその他のガスであって、爆発限界の下限濃度が10 %以下のもの、又は爆発限界の上限濃度と下限濃度との差が20 %以上のものを可燃性ガスと定義している。
 可燃性ガスによる災害事故の例を分類してみると、次の二つに大別することができる。

  1. 漏洩したガスが、漏洩口で着火、燃焼すれば、長大な火炎となって付近の設備を加熱し、加熱された設備が破壊して、更に二次災害へ結びつき、大きな災害へ発展してゆく場合がある。この事故例としては、タンクローリからLP ガスを貯槽へ受け入れているときに、移充てん用ホースのカップリングがはずれ、LP ガスが漏洩して着火し、その火災によって貯槽が加熱されて破壊し、大きな爆発事故となったことが報告されている。
  2. 漏洩した可燃性ガスが、漏洩口で燃焼しない場合には、そのガスは大気中に拡散して爆発性混合気体となり、着火源があれば爆発する。このような事故例は、数多く報告されている。最近の高圧ガス製造設備は規模が大きくなり、取り扱うガス量も多くなっているので、漏洩を起こすと漏洩ガス量も大量になる可能性が大きい。可燃性ガスが爆発した場合、その周辺にある構築物等が受ける爆風圧は、爆発した物質の量と比例的関係があるから、漏洩量が多いほど爆風による被害は大きいことになる。

1.2 毒性ガス

 毒性ガスは、我々の生活環境、作業環境にごく微量まじっていると、人体に種々の悪影響を及ぼす。
 一般高圧ガス保安規則第2 条では、33 種類のガス及びその他のガスであって、じょ限量(許容濃度)が200 ppm 以下のものを毒性ガスと定義している。
 許容濃度とは、労働者が連日曝露されても、当該ガスの空気中濃度がこの値以下であれば、ほとんどすべての労働者に悪影響がみられない濃度のことであり、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)及び(社)日本産業衛生学会の勧告値が広く採用されている。この二つの勧告値は、ほとんどの物質について同一の値となっているが、一部の物質に関しては若干異なっている。
 なお、一般高圧ガス保安規則では、可燃性ガスとともに、アクリロニトリル、亜硫酸ガス、アルシン、アンモニア、一酸化炭素、塩素、酸化エチレン、ジシラン、ジボラン、セレン化水素、二硫化炭素、ベンゼン、ホスフィン、モノゲルマン、モノシラン、硫化水素などの16 種類の毒性ガスについても、検知警報設備の設置が義務付けられている。

2. 測定方式

2.1 可燃性ガス

  1. 接触燃焼法
     可燃性ガスの検知に使用されるもので、白金フィラメントの周囲に白金、パラジウム等の触媒を固定して、これに耐久処理を加えた検出素子(検知エレメント、センサともいう。)に、可燃性ガスを含む空気が接触すると、可燃性ガスの濃度が爆発下限界(LEL ともいう。)以下であっても、触媒の作用によって酸化反応を起こし、このときの反応熱で検出素子の温度が上昇して、その抵抗が大きくなることを利用したものである。
     図1 に、この検出素子をホイートストンブリッジに組み込んだ検知警報器の回路を示す。この検知部では、フィラメントに電流を通して、250 ~ 400 ℃の温度に予熱しておくようになっており、補償素子は温度変化、電圧変化による指示の変化を補償するために設けられている。
     接触燃焼式センサは非常に小型・長寿命の為、可燃性ガス検知器用として広く使われている。

    接触燃焼法の回路図

  2. 半導体法
     金属酸化物半導体(SnO2、ZnO 等)への、可燃性(還元性)ガスの化学吸着による電気伝導度(導電率)の変化を利用した検出法である。
     金属酸化物の焼結体である半導体センサは、内蔵ヒータにより加熱し(200 ~ 400 ℃)、ガスの吸着、離脱の応答速度を速めている。動作原理は、半導体へのガスの吸着効果によるものが主要である。可燃性ガスが吸着すると、半導体との間で電子のやりとりをし、電子密度と電子構造が変化し、電気伝導度(導電率)が増大する。この変化は、ガス濃度の累乗に比例する。検回路は、図2 である。この原理は、ガスに対する感度が高いため、漏洩検知目的としての使用に適している。

    半導体法の回路図

  3. 熱伝導度法
     熱伝導度法によるガス検知は、抵抗温度特性の顕著な金属抵抗体の細線等を使用し、これを電気的に自己加熱させたセンサ(検知素子)に測定ガスが当たったときに、センサから奪われる熱量がガスの種類及び濃度によって変化し、これがセンサの電気抵抗の変化として現れることを原理としたものである。
     一般に検知素子に使用する金属抵抗体は、サーミスタを使用し、図3 に示すように2 個のサーミスタでブリッジ回路を構成させ、一方のサーミスタを測定用(検知素子)とし他方を密封構造にして温度変化による補正用(補償素子)としている。回路では、各サーミスタに電流を通電し、表面温度が180 ~ 500 ℃となるようにしている。この原理では、燃焼反応等の化学反応を伴わず、触媒の劣化や被毒が無いので、長期に安定して使用でき、また酸素の無い雰囲気中でも使用が可能である。

    熱伝導度法の回路図

  4. 非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)
     メタン、その他の可燃性ガスなど、分子が2 つ以上の異なる原子から成るガス分子(異核分子:CO、CO2 等)は、その分子構造によって決まる特定波長の赤外領域(1 ~20 μm)の光を吸収する。その吸収波長によってガスの種類を判別し、吸収の強さで濃度を決定するのが非分散形赤外線吸収法の原理である。
     測定ガス中を通る入射赤外線と透過後の赤外線強度との間には, Lambert-Beer の式が成り立つことが知られており、測定対象ガスの種類や装置によって決まるI0、α、L と、透過後の赤外線強度Iを求める次式によって、濃度C を知ることができる。

    赤外線強度の関係式


    ここで、

    数式中文字の定義


    この原理の特徴は、精度・安定性が良いこと、ガスに対して非接触であり感度劣化が無いこと、窒素雰囲気中でも測定可能であることなどである。検知部の概要を図4に示す。

    非分散形赤外線吸収法の原理図

  5. オープンパス法
     可燃性ガス検知として、半導体レーザ吸収分光によるオープンパス方法がある。
     メタン、その他の可燃性ガスは、特定の波長の近赤外光を吸収する性質があり、半導体レーザからメタン、その他の可燃性ガスに吸収される近赤外測定光を発光器で発光し、測定対象の大気中をある決められた距離だけ測定光を出射し、受光器で受光し、その受光信号から測定光が測定対象距離中に含まれるメタン、その他の可燃性ガス濃度を計測する。レーザ光を使用しているので、特定のガスのみに反応し、遠隔測定ができ、また検出時間も10 秒以下と短時間で測定ができる。概要を図5 に示す。

    オープンパス法可燃性ガス検知器

2.2 毒性ガス

(1)定電位電解法
 隔膜を透通して、電解液中に拡散吸収された測定対象ガスを、特定の電位で電解し、その際に生ずる電解電流を検出して、ガスの濃度を測定する。検知部の概要を図6 に示す。
作用電極と参照電極間にポテンショスタット回路を用いて一定の電位とし、測定対象ガスは作用電極で直接電気分解される。
 このときに発生する電流は、ガス濃度に比例するので、作用電極と対極の間に流れる電流を測定することによって、ガス濃度を知ることができる。 この原理は、毒性ガスに対して高い感度を有している上、小型・軽量化が可能であり、毒性ガス検知器用として広く使われている。

定電位電解法の検知部原理図

(2)隔膜イオン電極法
 隔膜を透通して、内部液中に拡散された、測定対象ガスによる内部液のイオン濃度変化を、イオン電極と比較電極を用いて検出し、ガスの濃度を測定する。検知部の概要を図7 に示す。
 測定対象ガスがNH3 の場合は、内部液の水素イオン濃度変化を検出するpH 電極が、またHCN の場合は、シアンイオン濃度変化を検出するシアンイオン電極が、用いられる。これら電極を使い分け、選択的にガスを測定することができる。

隔膜イオン電極法の検知部原理図

(3)検知テープ法
 発色剤を含浸させたセルローステープに、測定ガスを透過させ、反応により形成されるテープ上の発色からの反射光を電気的に測定し、極低濃度の毒性ガスを定量的に検知するという原理で、概要を図8 に示す。
 測定対象ガスをテープに導入するガスチャンバは、内部に発光素子と受光素子が配置され、また測定ごとにテープを巻きとるリール機構等から構成されている。
 テープにガスを透過させると、化学反応によってテープが発色し、この発色の度合いをテープに当てる光の反射光量の変化としてとらえられる。この反射光量の強度変化率を、予め検量線として求めておくことで、測定対象ガスの応答値から濃度を決定することができる。
 この原理は、透過時間を増し、反応(発色痕)を積算させることで極低濃度(ppb オーダー)の測定ができる。

検知テープ法の原理図

1.12.2 半導体製造用特殊ガス検知器

1. はしがき

 近年成長の目覚しい半導体製造産業では、IC やLSI等の製造工程で数多くの可燃性ガス及び毒性ガスを取り扱っており、その消費量は半導体生産量の増大に伴って、増加の一途をたどるとともに、半導体製造技術の飛躍的発展によって、より多種類の極めて危険性の高い可燃性ガス及び毒性ガスが使用されるに至っている。これらの特殊ガス類は、クリーンルーム内という閉鎖系の特殊環境下で使用されるために、僅かの漏洩が大きな事故に結び付く。
 そこで、昭和60 年(1985 年)には、「特殊材料ガス災害防止自主基準」(高圧ガス保安協会)が制定され、自主保安の推進がはかられている。これらの特殊ガスによる災害を防止するためには、極めて高感度のガス検知警報設備等が要求される。
 平成元年(1989 年)には、「特殊材料ガス漏洩検知警報設備指針」(高圧ガス保安協会)が制定され、半導体製造用特殊ガス計測器の機能、性能、設置場所等を規定し、一層の事故防止がはかられている。
 また、平成4 年(1992 年)には、一般高圧ガス保安規則の第二条に" 特殊高圧ガス" として、アルシン、ジシラン、ジボラン、セレン化水素、ホスフィン、モノゲルマン、モノシラン、の7 種が制定され、消費量や濃度を問わずガス検知警報設備の設置が義務付けられている。
 以下に、各測定方式の原理及び特徴を述べる。

1.1 特殊材料ガス

 特殊材料ガスは、半導体製造において、その材料となる特殊ガスであり、表1 のように多種類のものがあげられ、危険性の極めて高いものが多い。
 これらの危険性をあげると、毒性、可燃性、自然発火性、支燃性、自己分解性、窒息性等である。特に、毒性は極めて強く、許容濃度(TLV-TWA)も一般工業用ガスと比較して、1/10 ~ 1/100 と低いものが多い。 例えば、アルシン、セレン化水素0.05 ppm、ジボラン0.1 ppm、ホスフィン0.3 ppm 等で、 硫化水素10 ppm、 アンモニア25 ppm、一酸化炭素25 ppm などよりはるかに毒性が強いことがわかる。

半導体製造における特殊ガスの監視対象と項目

1.2 その他製造工程で使用されるガス

 半導体製造工程では、材料ガスの他に、多種類の汎用的なガス(一般工業用ガス)が使用されている(表2 参照)。

半導体製造工程に使用される汎用的なガス

2. 検知方式

(1)接触燃焼法
汎用的なガスである水素、エタン、プロパン等の可燃性ガスの漏洩検知に用いられる。1.12.1、2.1 可燃性ガス(1)接触燃焼法と同一である。

(2)半導体法
汎用的なガスであるイソプロピルアルコール、エチルアルコール等の溶剤ガスと低濃度の可燃性ガスの検知用として使用される。1.12.1、2.1 可燃性ガス(2)半導体法と同一である。

(3)定電位電解法
特殊材料ガスの低濃度検知が可能であり、例えば、アルシン0 ~ 0.2ppm、ホスフィン0 ~ 1 ppm、シラン0 ~15 ppm 等の検知に用いられる。
また、汎用的なガスである塩化水素、ふっ化水素、一酸化窒素、アンモニア、塩素等を低濃度検知も可能である。1.12.1、2.2 毒性ガス(1) 定電位電解法と同一である。

(4)検知テープ法
特殊材料ガス及び汎用的なガスの極低濃度検知が可能であり、クリーンルームの環境モニタとして使用される。アルシン0 ~ 150 ppb、セレン化水素0 ~ 200 ppb や塩化水素0~600 ppb、硫化水素0~100 ppbなどppbオーダでの測定も可能である。1.12.1、2.2 毒性ガス(3)検知テープ法と同一である。

1.12.3 作業環境測定用計測器

1. はしがき

 作業環境測定用計測器としては、労働安全衛生法酸素欠乏症等防止規則による酸素計測器及び硫化水素ガス検知器、粉じん障害防止規則に基づく粉じん計や建築物の衛生的環境の確保に関する法律(いわゆるビル管理法)に基づく室内空気中のCO2 計測器、粉じん計等がある。
 酸素は人間の生命にとって欠かすことの出来ない物質で、通常、空気中に約21 %含まれている事はよく知られているが、この空気中の酸素濃度が減少すると、酸素欠乏状態となり生命の危険を生ずる。酸素欠乏は、換気が悪く、かつ酸素を消費したり、無酸素ガスが多量に流入したりする場合に起き易い。例としては、化学工場等の原料タンク洗浄作業時の空タンク、タンカの荷揚後や洗浄補修時の空タンク、燻蒸等に用いる各種密閉小室、地下貯蔵庫、サイロ、船艙等貯蔵設備、掘井戸、マンホール内、基礎掘削工事現場、トンネル工事現場等が挙げられる。
 また、酸素欠乏症防止対策の対象としていた前述場所等に於いて、硫化水素の発生による労働災害が多発した。このため、昭和57 年(1982 年)4 月労働安全衛生法の一部が改正され、酸素欠乏症防止規則は、酸素欠乏症等防止規則として、酸素欠乏症及び微生物の働きにより硫化水素中毒の両方が発生するおそれのある場所(第二種酸素欠乏危険場所)では、酸素濃度と硫化水素濃度を測定することが義務付けられた。

2. 各種計測器

2.1 酸素計測器

 作業環境測定用として、小型・軽量化が可能なガルバニ電池式センサが用いられる。貴金属(銀、白金又は金など)を陰極、卑金属(鉛など)を陽極とし、これを電解質溶液(苛性カリ水溶液)中に浸漬したガルバニ電池では、酸素の透過性が優れた隔膜(テフロン膜など)を通して、サンプルガス中の酸素が電解質溶液中に溶解すると、電解液中の溶存酸素に比例した還元電流が発生する。これを 利用したものがガルバニ電池方式である。電池の出力電流は、隔膜を透通した酸素量、すなわちサンプルガス中の酸素分圧に比例するので、この電流を増幅して酸素濃度として、指示計で読みとることができる。図9 に、ガルバニ電池法の原理図を示す。

ガルバニ電池の原理図

2.2 硫化水素計測器

 硫化水素検知法では一般的に定電位電解法が使用されている。定電位電解法については1.12.1、2.2 毒性ガス(1)定電位電解法と同一である。

2.3 室内CO2 計測器

 建築物の衛生的環境の確保に関する法律(いわゆるビル管理法)によって定められている建築物(たとえば事務室、デパート、地下街、劇場など)の環境空気の衛生管理のために用いる計測器であって、室内空気の汚染状態の指標となるCO2 濃度を連続測定し適切な換気を行うための制御信号と警報信号を発信する。これにより空調などのエネルギの省力化が行える。
 測定原理は、非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)を採用しているが小型・軽量化を図り、壁かけ形にするため、構造を単純化し、シングルビーム光源、シングルセル形になっている。1.12.1、2.1 可燃性ガス(4)非分散形赤外線吸収法と同一である。

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