5-1-3 窒素酸化物計測器

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1.3.1 環境大気用

1.はしがき

 大気中の窒素酸化物の多くは、自動車排ガス、燃焼炉排ガス中に含まれ、大気中に拡散されて一次汚染物質として直接人体に影響を及ぼす。さらに、それは二次汚染物質を大気中に生成し、光化学スモッグ発生の要因となる。したがって、大気汚染防止対策上、その測定が必要となる。とくに、二酸化窒素については、環境基準が制定されており、ザルツマン試薬を用いる吸光光度法により測定する ことが義務づけられている。

 JIS B 7953「大気中の窒素酸化物自動計測器」では、大気中の窒素酸化物の濃度を連続的に測定する自動測定器として、化学発光法と吸光光度法に基づくものが規定されている。以下に、それぞれの測定方式の原理、特徴について述べる。

2.測定方式

 表1 に、計測器の種類及びレンジを示す。

計測器の種類とレンジ

2.1 化学発光法

 この方式は、試料大気中の一酸化窒素とオゾンの反応によって生ずる化学発光強度が、一酸化窒素濃度と比例関係にあることを利用して、試料大気中に含まれる一酸化窒素濃度を測定する。二酸化窒素を測定する場合は、試料大気をコンバータに通して測定した窒素酸化物NOx(= NO + NO2)濃度からコンバータを通さない場合の測定値(一酸化窒素濃度)を差引いて求める。NOx(= NO+ NO2)とNO を測定する場合は、反応槽と検出器の配置によって、測定法は基本的には次の3 方式にわかれる。すなわち、流路切換方式、光路切換方式及び二流路二光路切換方式である。これらの方式を基礎にして検出器の暗電流の影響を軽減し、NOx、NO 測定値の信頼性の向上を図る工夫がなされている。

 化学発光法による計測器は、図1 に示すように、流量制御部、コンバータ、オゾン発生器、反応槽、光電測光部、演算増幅器、試料大気吸引ポンプ、指示記録計などで構成されている。

化学発光法による窒素酸化物計測器の構成例

 なお、計測器の方式は、図2 に示すように、流路切換方式、光路切換方式及び二流路二光路切換方式とがある。流路切換方式は、反応槽及び光電測光部が一つで、一酸化窒素及び窒素酸化物のそれぞれの濃度は試料ガスがコンバータを通るか通らないかで、交互に出力される。二流路切換方式は、試料ガスの流れが二つに分割され、一方は直接反応槽に、もう一方はコンバータを通って反応槽に入るものとする。反応槽は二つで、1 個又は2 個の光電測光部がそれぞれ大気中の一酸化窒素及び窒素酸化物を計測する。

化学発光方式計測器の構成例

2.2 吸光光度法

 この方式は、吸収液(ザルツマン試薬)を用いる吸光光度法によって、試料大気中に含まれる一酸化窒素と二酸化窒素を同時に連続測定する方式である。吸収液(N - 1-ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩、スルファニル酸及び氷酢酸の混合溶液)に試料大気を一定時間通気して二酸化窒素を吸収させ、吸収液の吸光度を測定し、試料大気中に含まれる二酸化窒素濃度を連続的に測定する。一酸化窒素は吸収液と反応しないので、酸化液(硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液)で二酸化窒素に変えてから、二酸化窒素と同様の方法で測定する。
 計測器は、図3 に示すように、ダストフィルタ、流量計、二酸化窒素吸収器、酸化ビン、一酸化窒素吸収器、試料大気吸引ポンプ、吸収液タンク、吸収液送液ポンプ、吸光度測定器、プログラマ、指示記録計などから構成される。二酸化窒素吸収器、酸化ビン、一酸化窒素吸収器を直列に配列し、これらの温度は20 ℃以下にならないようにする。測定には連続式と周期式とがあるが、ここでは周期式の概略を述べる。

 まず、一定量の吸収液が二個の吸収ビン中に採取される。次に、試料大気が一定流量で、一定時間吸収液中に導入される。二酸化窒素吸収器の吸収ビンでは、NO2 の吸収が行なわれ、ここでは吸収されない試料大気中のNO は、酸化ビン内の硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液中で酸化されてNO2となり、一酸化窒素吸収器の吸収ビン中の吸収液に吸収される。吸収ビン中で発色した吸収液は、測定セルに導かれ、試料大気の導入開始から一周期の測定終了時まで545 nm 付近の測定波長で吸光度の連続測定が行なわれ、吸光度の変化に対応した,鋸歯状記録が得られる。すなわち、周期の始めにはゼロ点、途中ではNO2 の積算量に対応する値、さらに周期の終りには、この間のNO2 平均濃度(ppm 単位直読リニア)などが、それぞれ記録される。長期間吸光度測定を精度高く行なうためには、光源の光量変化、セル窓の汚れ、吸収液のわずかな着色などによる吸光度の変化を、自動的に補償する自動ゼロ点補正機構が必要である。一般に、周期の始めに、吸収ビンに吸収液を採取したとき、ただちに吸光度測定を行ない、その値を電子素子に記憶させ、その時点をゼロppm と演算して指示記録させる場合が多い。

吸光光度法による窒素酸化物計測器の構成例

1.3.2 固定発生源用

1. はしがき

 窒素酸化物(NOx)は、主に一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)であり、高温燃焼の際に燃焼用空気中の窒素と酸素が酸化反応して生成するものが多い。
 NOx は、それ自体有害な気体であるほか、光化学オキシダントの要因物質でもある。昭和48年(1973年)5月に、NO2 に係る環境基準が設定され、つづいて同年8 月に工場・事業場のボイラ、加熱炉等の固定発生源に対してNOx 排出基準の設定及びその規制が開始された。

 固定発生源用窒素酸化物計測器は、昭和52 年(1977 年)12 月に、JIS B 7982「排ガス中の窒素酸化物自動計測システム及び自動計測器」が制定され、同JIS は、平成14 年(2002 年)に改正された。この中に採用されている4 種の原理別測定方式の種類、測定対象成分、測定範囲を表2に、試料採取部の構成例を図4 に示す。

窒素酸化物測定の方式の種類と測定範囲、対象成分

固定発生源用窒素酸化物計測器の流路系統図の例

 これら窒素酸化物計測器のうち、計量法の検定対象濃度計は、赤外線吸収法、化学発光法、紫外線吸収法の3 種である。これは、証明上の計量に使用する濃度計は検定に合格していることが必要であると同時に、目盛校正用ガスとして、(財)化学物質評価研究機構(CERI と略称されている)の検査合格標準ガス、又は、(財)日本品質保証機構(JQA と略称されている)の検査合格の校正用ガス調製装置による標準ガスを使用しなければならない。なお、検定対象測定範囲は表3 に示す。この範囲にある測定レンジは、レンジ毎に検定対象となる。計量法については、資料編8.特定計量器と検定制度を参照されたい。 固体発生源用窒素酸化物計測器の採用に当っては、次の点について検討し、対象排ガス測定に、より適した計測器を選ぶ必要がある。

計量法で定める検定対象測定範囲

(1) 排ガスの組成
対象成分濃度:計測器の測定範囲を決める重要な要素で、常用測定範囲をフルスケールの50 %付近になるよう選ぶ。
NO/NO2 比:コンバータを用いる計測器では、その変換効率が還元型、酸化型いずれの場合も90 %以上という規格のため、この比率によって測定誤差が大きくなるので、表2 を参照して測定原理を選ぶ。 CO2、SO2、アンモニア等他成分濃度:それぞれの計測器によって干渉の影響が異なるので、JIS B 7982「排ガス中の窒素酸化物自動計測システム及び自動計測器」などを参照し、誤差のもっとも少ない機種を選ぶ。

(2) 排ガスの性状
ガス圧と、その変化の幅、含まれるダストの量と性状、水分の量、これらは計測器の前処理装置で測定成分を損なうことなく充分除去しなければならない。

(3) 定置型と移動型
とくに、移動型の場合は、暖機時間が短い、振動に強い、小型・軽量等が要求され、長期連続測定よりも数時間から7 日程度の連続測定を目的とし商品化されている。
以下に、非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)、化学発光法(CLD 法)、紫外線吸収法(UV 法)、差分光吸収法、定電位電解法、ジルコニア法の原理及び特徴を述べる。

2. 測定方式

2.1 非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)

 一酸化窒素(NO) の5.3 μm 付近における赤外線の吸収量の変化を、選択性検出器を用いて測定し、NO 濃度を求める。NO2 は、還元型コンバータに通してNO に還元したのち、NOx として測定する。

 図5 に示すように、NO の赤外線領域における吸収帯は、CO、CO2、SO2、NO2、水分及び有機化合物などの吸収帯と全く重なり合わないか、非常に弱い吸収帯の重なりがあるだけで、NO に対して選択性のよい検出ができる。

一酸化窒素の吸収スペクトル

 この方式は、試料ガス中の水分、CO2 によって干渉影響を受けるので、妨害成分ガスを封入したガスフィルタ、NO の吸収帯のみを選択的に透過する光学固体フィルタ、干渉成分の信号を得て影響を補正する補償型検出器を用いるなどの対策がとられている。
 赤外線吸収法の計測器は、試料ガス流量変動の影響を受けにくく、日常の保守・管理が容易である。また、高い選択性と感度を持ち、一つの光学系でSO2 やCO といった複数の成分を測定することができるという特長があるため、多成分計として利用されている。赤外線吸収法による計測器の構成例は、1.2 硫黄酸化物計測器の図6 を参照されたい。

2.2 化学発光法

 図6 に、化学発光法による窒素酸化物計測器の構成例を示す。

化学発光法による窒素酸化物計測器の構成例

 この方式は、NO がオゾンと反応してNO2 を生成する過程において生じる化学発光を利用する。発光強度は、NO 濃度と比例関係にあるので、その発光強度を測定してNO 濃度を求める。この反応におけるオゾンは、空気又は酸素を無声放電又は紫外線照射することによって発生させる。化学発光の波長特性は、図7 に示すように、590~ 2500 nm の波長域のうち、他の化学発光の影響を除くためのカットフィルタ特性及び光電子増倍管の特性によって600 ~ 900 nm の範囲が測定できる。

一酸化窒素とオゾンの化学発光の分光特性

 化学発光法による計測器は、NOx の広い濃度範囲にわたって直線性を示すほか、環境濃度を測定できる高い感度と選択性を有する利点がある。
 NO2 は、オゾンとの反応では発光しないため、還元型コンバータに通してNO に変換したのち測定する。
 排ガス測定における妨害成分は、主に二酸化炭素(CO2)である。これは、オゾンとの反応において励起されたNO2 分子から励起エネルギを奪うことによって起る。この干渉を少なくする方法は、発光反応槽の構造、圧力及び反応槽に導入される試料ガスとオゾンの流量比を選択する。図8 に、反応槽条件とCO2 の影響の例を示す。

反応槽条件と二酸化炭素の影響例

2.3 紫外線吸収法

 図9 に、紫外線吸収法による窒素酸化物計測器の構成例を示す。

紫外線吸収法による窒素酸化物計測器の構成例

 この方式は、NO の195 ~ 230 nm 付近、又はNO2 の350 ~ 450 nm 付近における紫外線の吸収量の変化を、光電的に測定し、NO 濃度又はNO2 濃度を求める。NOxとして測定する場合は、NO 及びNO2 を個々に測定し、その出力を加算する多成分演算型、試料ガスを酸化型コンバータに通し、NO をNO2 に変換して測定するオゾン酸化熱分解型がある。
 この方式の特徴は、図10 に示す吸収スペクトルからわかるように、排ガス中に共存するCO、CO2、水、アンモニアなどの吸収がないため、これらの影響を受けないこと、NO2 は、400 nm 付近の波長を用いて測定されるため、SO2 の吸収波長域をさけられることである。

一酸化窒素と二酸化窒素の吸収スペクトル

2.4 差分光吸収法

 この方式は、目的とする成分の吸収が、ある波長域において、吸収のピークと端部との吸収信号の差から測定成分の濃度を算定する。一酸化窒素(NO)では、215、226 nm 付近、二酸化窒素(NO2)では、330 ~ 550 nm が代表的な測定波長である。

2.5 定電位電解法

 この方式は、ガス透過性隔膜を通して電解槽中の電解質中に拡散吸収されたNO 及びNO2 を、所定の酸化電位を与えて定電位電解法により酸化させ、その際に生じる電解電流を取り出し、試料ガス中のNOx 濃度を求める。共存する塩化水素、硫化水素、塩素の影響を無視できる場合、又は影響を除去できる場合に適用し、レンジは、0 ~100 ppm から0 ~ 2500 ppm の間で適切なものを選ぶ。

2.6 ジルコニア法

 この方式は、高温に加熱したジルコニア(ZrO2)の酸素イオン伝導性を利用したセンサであり、NO とN2 及びO2 の平衡反応化学式(一酸化窒素の平衡反応)から右辺の酸素を除去することでNO の分解を促進させ、この分解で発生した酸素を測定することにより、NOx 濃度を測定する。

 図11 に示すように、第一内部空間に流れ込んだ測定ガスは、酸素ポンプにより汲み出され、低い濃度に制御される。このとき、第一内部空間より酸素を汲み出す時に流れる電流とO2 濃度が比例関係にあることから、O2 濃度を求めることができる。次に測定ガスは、第二内部空間に拡散し、酸素濃度はさらに低い値に制御され、NO はN2とO2 に分解される。この分解により発生した酸素を、酸素ポンプで汲み出し、そのときに流れる電流を測定する。この電流は、NO 濃度と比例関係にあることから、測定ガスのNOx 濃度を求めることができる。尚、原理上1つのセンサでO2 濃度も同時測定が可能である。

ジルコニア法の検出原理図

 この方式の特徴として、雰囲気ガスをセンサで直接測定できることからサンプリング装置が不要で、応答性の速い測定が可能であること、小型で設置が容易なこと、振動に強いこと、暖機時間も3 分程度で他方式に比べ極めて速い事等である。干渉ガスとしてNH3 がある為、雰囲気ガス中にNH3 が存在する場合は、除去対策が必要となる。

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