5-1-8 悪臭計測器

1.はしがき

 ここでいう悪臭計測器の計測対象は、一般的な概念でいう悪臭ではなく、悪臭防止法の規定する悪臭成分の濃度を計測するものである。悪臭防止法では、主要な悪臭の発生原因物質として、現在、アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、イソブタノール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、トルエン、スチレン、キシレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸の22 物質が指定されている。
 最終的な濃度計測は、アンモニアについては可視紫外分光光度計、他はガスクロマトグラフ(GC-FID 及び/又はFPD 付き)が使用される。以下に、自動計測器、においセンサについて測定原理及び特徴を述べる。また、測定は敷地境界線上濃度(環境)及び排出口濃度で若干方法が異なるが、測定例の少ない後者は割愛した。

2.測定方式

2.1 ガスクロマトグラフ法(GC 法)

 ガスクロマトグラフ(GC)による分析には、悪臭成分を捕集・濃縮する導入装置が必要である。具体的な方法は、導入する成分により異なるが、捕集には、捕集溶液を用いる方法、試料採取袋を用いる方法、試料捕集管を用いる方法があり、濃縮方法には、常温吸着、低温濃縮、DNPH 捕集がある。
 公定法に準拠する悪臭計測法は、かなり複雑であり、上記のような種々の機器を要する。このため、サンプリング部のみを現場に運搬し、捕集した悪臭成分を分析室に持ち帰って分析するのが現状で、機動性はあるが、1 地点を連続監視することはできない。悪臭の被害の様相は気象や発生源の操作に影響されることが多いので、特定の地点については連続的に測定を行うことが必要とされる場合がある。図1 は、硫黄系悪臭自動計測器の構成図及び試料濃縮部の例である。

硫黄系悪臭自動計測器の例

 この計測器は、試料の捕集、低温濃縮、加熱導入、分析を自動的に行う自動ガスクロマトグラフ(FPD 付)である。液体酸素による冷却方法は、自動無人運転には不適当であり、冷凍機を用いて- 60 ℃に冷却した液体冷媒を必要時循環させることが大きな特徴である。捕集効率は、液体酸素を用いた場合と変らないことが実験により確かめられている。FPD の出力は、リニアライザで処理され、警報も設定することができる。測定周期は 30 分で、検出器に使用する水素は、水素発生器で生成する。

2.2 半導体においセンサ法

 半導体においセンサは、金属酸化物半導体表面でのガス吸着による熱伝導度変化及び電気伝導度(導電率)変化を、白金線コイルの抵抗値変化として測定する。 白金線コイルに流れる電流によって、約300 ~ 450 ℃に保たれた金属酸化物半導体(SnO2)が、還元性ガスのような電子供与性ガスを吸着すると、その電子濃度が増し半導体の熱伝導度がよくなる。その結果、放熱がよくなり半導体の温度が下がり、白金線の抵抗が低下する。この場合、白金線コイルは、接触燃焼式センサの場合と同様に、温度計として機能している。においセンサの特徴を以下に述べる。
 におい物質の物理化学的性質と、においの種類, 強度などについては, 定性的, 定量的な研究がなされ, 多くの成果が得られている。
におい物質の濃度と、においの強度との関係は, においの種類によって大きな違いがあるが、同一のにおい物質における濃度と、においセンサ感度との関係の場合は、定量化できる。飽和炭化水素のように, においを発しないか、発しても非常に小さい物質は、センサ感度も小さく, におい感度の大きい(閾値の低い)物質は、センサ感度も大きいという傾向がみられる。
 一般的に、チオール(-SH)、第2 級アミン(-NH)、第1級アミン(-NH2)、ケトン(C=O)、エーテル(C-O-C)、アルデヒド(-CHO)、カルボン酸(-COOH)、アルコール(-OH)、ニトリル(-CN)の基を持った物質は, センサ感度が大きくなる。におい物質の種類とセンサ感度の関係をまとめた一例を、図2 に示す。

各種におい物質のにおいセンサ感度の例

 同じ濃度でもベンゼン(C6H6)(A )とメチルメルカプタン(CH3SH)(B )では、センサ出力は、20 倍以上違う(A'= 3mV、B' = 70mV)ことがわかる。
 各種におい物質(代表物質)のにおいセンサ感度を比較してみると、表1 のようになる。

におい物質のセンサ感度と検知閾値

 これは, センサの種類・材料などが変われば、この順序は幾分変化するものと思われるが, 官能基の種類によって著しくセンサ感度が違うことがわかる。
 各におい物質の検知閾値とセンサ出力(エチルアルコールの感度を100 としたときの相対値)の関係を、図3 に示す。 検知閾値の小さい物質(においの強い物質)は, 概ねセンサ出力も大きく, 人間の嗅覚のもつ特性とにおいセンサのセンサ感度は, ほぼ対応することがわかる。

におい物質の検知閾値とセンサ感度

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