5-1-5 オキシダント計測器及びオゾン計測器

1. はしがき

 現在、一般的に総称されるオキシダントという用語は、1950 年代初頭、ロサンゼルスに発生した光化学スモッグに対するHaage-Smit 博士の学説に由来している。日本でも1970 年頃から光化学スモッグに見舞われ、多くの被害を出してから、オキシダントという名称が一般的に使われるようになった。
 オキシダントとは、全オキシダント・光化学オキシダント・オゾン等の酸化性物質の総称を、全オキシダントとは、中性よう化カリウム溶液と反応し、よう素を遊離する物質の総称をいう。また、光化学オキシダントとは、オゾン、パーオキシアセチルナイトレート(PAN)、その他の光化学反応により生成される酸化性物質(中性よう化カリウム溶液からよう素を遊離するものに限り、二酸化窒素を除く)をいい、高濃度だと目や、のどの粘膜を強く刺激するなどの直接的な健康被害を引き起こす。
 実際のオキシダント中の主成分は、オゾンであるが、よう化カリウムを用いたオキシダント計測器は、オゾン、パーオキシアセチナイトレート、その他、酸化性物質も同時に測定される。オゾンのみ測定するオゾン計測器は、表1 のように測定成分により区分される。

計測器の種類の表

 光化学オキシダントの環境基準は、1時間値が0.06 ppm以下である事(昭和48 年5 月8 日環境庁(現環境省)告示第25 号)となっており、これに係る測定方法が、昭和52年(1977 年)に、中性よう化カリウム溶液を用いる吸光光度法もしくは電量法が採用されていたが、光化学オキシダントの測定値に対するオゾン以外の成分の関与は極めて小さいと考えられ、平成8 年(1996 年)10 月25 日 環境庁(現環境省)告示第73 号により「紫外線吸収法又は化学発光法」が追加された。大気中のオゾン及びオキシダント濃度の連続測定に関して、JIS B 7957「大気中のオゾン及びオキシダントの自動計測器」に、吸光光度法、化学発光法及び紫外線吸収法が規定されている。
 以下に、化学発光法、紫外線吸収法、吸光光度法、電量法の原理及び特徴について述べる。

2. 測定方式

2.1 化学発光法

 オゾンは、オレフィン類と反応して化学発光する。自動計測器としては、エチレンと試料大気を一定流量比で混合し、オゾンと反応して出る近紫外領域の発光を光電子増倍管で捕える方式である。図1 に、化学発光法によるオゾン自動計測器の構成例を示す。

化学発光法によるオゾン自動計測器の構成例

 オゾンとエチレンの反応は、固有で干渉成分がほとんどなく、発光強度とオゾン濃度とは数ppmまで直線性が確かめられている。

2.2 紫外線吸収法

 オゾンは、紫外領域の254 nm 付近に最大の吸収帯を持っており、その吸光量を測定しオゾン濃度を測定する。試料の紫外線吸光量を測ると、同波長帯に吸収を持つ共存ガスによる吸光量も含んでしまうので、この方式による計測器では、試料中のオゾンだけを分解する比較ガスラインを設け、試料と比較ガスの吸光量の差からオゾン濃度を求める。
 試料と比較ガスの導入方式としては、主に1 つの測定セルに交互に導入するシングルセル方式(図2)と、2 つの測定セルに同時に導入するデュアルセル方式(図3)の2 つの方式がある。デュアルセル方式では、測定セルによる誤差をなくすため、2 つのセルに試料と比較ガスを周期的に入れ変えて測定する。紫外線光源としては、主に低圧水銀ランプが用いられる。

オゾン自動計測器の構成例(上図はシングルセル方式、下図はデュアルセル方式)

2.3 吸光光度法

 中性よう化カリウムは、オゾンと反応し、次のようによう素(I2 )を遊離する。

2KI + O3 + H2O → I2 + 2KOH + O2

 この方式による計測器では、一定量の吸収液と一定流量の試料とを接触反応させ、遊離したよう素量を、波長365 nm の吸光度で測定し、オキシダント濃度を記録する。試料大気は、SO2 等の還元性ガスの影響を除くために酸化スクラバを通した後、向流吸収管の下方へ送られる。吸収液は、タンクから吸光度測定部の比較セルを通り向流吸収管の上方へ送られ、吸収管で接触反応した液は測定セルへ送られる。測定された吸光度は、対数アンプを通してオキシダント濃度に対し直線的な信号に変換される。図4 に、吸光光度法によるオキシダント計測器の構成例を示す。

吸光光度法による全オキシダント計測器の構成例

2.4 電 量 法

 この方式は、中性よう化カリウムとオキシダントの反応で遊離したよう素を、電解還元して測定するものである。吸収液中に一定電位を与えた一対の電極を挿入しておくと、電極に水素皮膜が形成された分極状態になるが、この状態でオキシダントと反応して遊離したよう素が入ると、

H2 + I2 → 2HI

となるので、電極表面の水素皮膜が除かれ電流が流れる。この際に流れる電流値は、オキシダント濃度に比例するので、一定流量比の試料大気と吸収液を反応させオキダント濃度を連続測定する。図5 に、電量法による全オキシダント自動計測器の構成例を示す。

電量法による全オキシダント自動計測器の構成例

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