5-1-9 揮発性有機化合物(VOC)計測器

1. はしがき

 平成16 年(2004 年)5 月に大気汚染防止法が一部改正され、揮発性有機化合物(以下VOC という)の排出量を抑制するための法規制と自主取り組みによるVOC 削減対策が、平成18 年(2006 年)度から始まった。
 このVOC は、光化学オキシダントや浮遊粒子状物質(SPM)二次粒子の生成に寄与しており、SOx・NOx・SPM とならび、その排出抑制は課題となっていた。
 VOC 計測器で計測する対象は、大気中に排出され、又は飛散した時に気体である有機化合物である。但し、浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質は除く。
 主要な物質として、アルカン、環状アルカン、アルケン、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、芳香族炭化水素など各種のVOC が想定される。表1に、環境省から公表されている「VOC に該当する主な物質」を示す。対象となる施設は、VOC の排出量が多く大気環境への影響も大きい、塗装、化学製品製造、工業用洗浄、印刷、VOC の貯蔵、接着剤使用施設などである。
 公定法では、試料ガスの採取は捕集バッグで行い、8時間以内に分析を行う。この濃度測定には、水素炎イオン化検出法(FID 法)又は非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)を用いる。
 また、光イオン化検出法(PID 法)は、各VOC成分に対し選択性があるため、公定法では使用できないが、トータルVOC の測定ではなく特定のVOC の測定となるため、施設によって、その選択性を生かした簡易測定が可能である。
 以下に、測定原理及び特徴について述べる。

2. 測定方式

 VOC は、計測器に導入される前に捕集装置にて捕集される。図1 は、VOC 捕集装置の例である。捕集は、フッ素樹脂フィルム製又はポリエステル樹脂フィルム製のバッグを使用し、使用前にVOC の吸着低減のため、試料ガスによる共洗いが必要となる。単位時間当たりの排出ガスのVOC 濃度の変動を考慮し、20 分間の試料ガスの捕集を行い、捕集後のバッグは遮光して運搬を行う。分析までの時間は、原則8 時間以内とする(困難な場合でも24 時間以内)。

VOC捕集装置の例

2.1 水素炎イオン化検出法(FID 法)

 VOC 測定として使用されるFID は、試料ガス中の炭化水素が燃料ガスと混合され水素炎に導入され、ジェットノズルの先端にて燃焼している水素炎の熱エネルギによってイオン化が起こる。ここで、ジェットノズルと電極との間に直流電圧を印加することで、炭素数に比例した微小イオン電流を捕集することができ、濃度信号に変換する。FID の流路構成の例を、図2 に示す。原理的に測定中においては、燃料ガスとしての水素及び助燃ガスとしての空気(酸素)を持続的に供給しなければならない。

FIDの流路構成の例

 水素炎イオン化検出法(FID 法)による、各種炭化水素の相対感度及び酸素干渉について述べる。FID でのVOC を含む炭化水素の感度は、原理的に炭素原子数として同種の炭化水素にはほぼ比例するが、異種の炭化水素には厳密には比例しない。この差異は、炭化水素の相対感度と呼ばれ、特にエステル類の含酸素化合物(例えば酢酸エチル)やアルコール類の感度は、プロパン基準で30%程度低い値となる。また、試料ガス中の酸素濃度の違いによりFID のVOC を含む炭化水素の感度は同様に変化する。これは、酸素干渉と呼ばれ、各ガスの流量混合比、燃料ガスの燃料組成比及び検出器部の材質、構造、寸法あるいは水素炎の形状や温度分布によって変化する。FID において、最適化された検出器を採用することにより、酸素影響がフルスケールの10% 以下の性能が得られる。

揮発性有機化合物(VOC)に該当する主な物質の表

2.2 非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)

 酸化触媒を利用したNDIR 法は、試料ガス中のVOCを高温に加熱された酸化触媒に通して、全量をCO2 に酸化し、変換されたCO2 濃度を差量式のNDIR 法で検出する方式である。
 NDIR 法によるVOC 計測器の構成例を、図3、図4 に示す。

差量式燃焼法NDIR法によるVOC計測器の構成例

比較流通式燃焼法NDIR法によるVOC計測器の構成例

 NDIR 法の測定原理は、CO2 のガスに光源からの赤外線エネルギを照射することでCO2 固有の波長の赤外線エネルギが吸収されることを利用している。赤外線エネルギの吸収量は、CO2 のガス濃度と測定セルの長さによって定まり、Lambert-Beer の法則によって表された指数関数的な出力となる。濃度検出までの過程は、①光源からの赤外線エネルギが照射された測定セル内で、試料ガスと基準ガスを切換弁により交互に一定周期間隔で導入し断続する、②断続することで検出器に到達する赤外線エネルギの量が一定周期間隔で変化する、③検出器内では赤外線エネルギの量が変化することで、封入されているCO2 ガスの分子運動の変化が圧力の変化として薄膜コンデンサを振動させる、④最終的に、この薄膜コンデンサの静電容量の変化を電圧の変化として増幅し、交流電気信号として取り込みCO2 のガス濃度を検出する。なお、試料ガスに含まれるCO2 のガス濃度のパーセントオーダーでの変化に対しては、原理的に差量式としていることから測定誤差が大きくなるため、例えば、燃焼系のVOC 除外装置の後段で測定することは公定法では認められていない。
 酸化触媒を利用したNDIR 法によるCO2 濃度の測定では、O2 濃度が増加すると、O2 の助燃作用による働きで、触媒管内に充填された酸化触媒の燃焼効率が上昇する。結果として、CO2 への酸化が促進され、測定指示が上昇する傾向がある。なお、触媒の材質として白金系やパラジウム系を主としていることから、触媒に対する被毒や劣化の原因となるCO 濃度の変化については、特に留意する必要がある。

2.3 光イオン化検出法(PID 法)

 光イオン化検出法(PID 法)の代表的な原理図を、図5に示す。試料ガスに紫外線(10.6eV)を照射・イオン化させ、そのイオン量(電流値)を測定することにより、成分の有無と濃度を測定する。検出可能なVOC は、イオン化エネルギが10.6eV 以下のVOC となる。イオン化エネルギは、それぞれの試料ガス(A)により異なる。

A + h ν → A+ + e-

 また、各VOC 成分に対し選択性があり、トータルVOC の測定ではなく、特定のVOC の測定となるため、施設によって、その選択性を生かした測定が可能である。

PID法の測定原理

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