5-1-11 その他の大気汚染計測器

1.11.1 ふっ素化合物計測器

1.はしがき

 大気中のふっ素化合物は、ふっ素化合物を多く含む原料を使用するアルミニウム精錬工場、肥料工場、窯業などの工場排ガスを発生源とするもので、工場から排出されるガス状ふっ素化合物は、主として、ふっ化水素(HF)、四ふっ化けい素(SiF4)であり、この他に粉塵、ミストなどの形態もあるが、大気汚染物質としては、ふっ化水素が主なものである。ふっ化水素の濃度は、排出源の工場排ガスで、数ppm 程度以下、大気中ではppb 以下であり、他の大気汚染物質と比較して著しく低く、汚染地域も工場周辺に限られている。また、低濃度では、ふっ化水素が直接人間の健康に害を及ぼすことは少ないが、植物の生育に及ぼす影響はきわめて大きく、数ppb より、その被害があるといわれている。このため、ppb レベルのきわめて低濃度のふっ化水素ガスの連続測定が必要とされている。
 計測器については、JIS B 7958「大気中のふっ素化合物自動計測器」で規定されている。測定対象は、孔径0.8 μm のフィルタを通過する無機ふっ素化合物を、ガス状無機ふっ素化合物と定義される。測定方式は、イオン電極法と吸光光度法の測定方式があり、大気中ふっ化水素ガスが測定される。
 排ガス中のふっ素化合物の計測器についてJIS の規定は無いが、分析方法としてJIS K 0105「排ガス中のふっ素化合物分析方法」の原理を応用している。

2.測定方式

2.1 イオン電極法

 大気中に含まれるガス状無機ふっ素化合物を、緩衝液中に捕集溶解させ、この溶液中のふっ素イオン濃度をイオン電極法によって測定し、大気中のガス状無機ふっ素化合物濃度を1 時間、あるいは3 時間を周期として記録する。ppb レベルのガス状無機ふっ素化合物を正確に測定するため、大量の試料大気の捕集には、次の方法が採られている。

(1) 乾式捕集形
 アルカリ吸収液を用いて、内壁にアルカリ膜を作ったスパイラル吸収管に試料大気を導入し、これに含まれるガス状無機ふっ素化合物を吸着吸収させたのち、この内壁を一定量の緩衝液で洗い流し溶解捕集する。乾式捕集形の計測器の構成例を、図1 に示す。

(2) 湿式捕集形
 緩衝液を吸収液として、これに直接試料大気を接触させ、含まれるガス状無機ふっ素化合物を溶解捕集する。湿式捕集形では、試料大気の流量を30 L/min、緩衝液量を10 mL 程度にし、試料大気の通気による緩衝液の蒸発を常に水で補いながら捕集を行っている。緩衝液としては、pH5.3 程度の酢酸ナトリウム、あるいはクエン酸ナトリウムの水溶液が用いられ、ふっ素イオン電極の電位を安定化するために10-5 mol のふっ素イオンが加えられている。ふっ素イオン電極は、ふっ素イオンのほかに、ほとんど応答しない特性をもっているので、イオン電極法による計測器は、大気中の妨害ガスの影響を受けることがない。湿式捕集形の計測器の構成の例を、図2 に示す。

2.2 吸光光度法

 大気中に含まれるガス状無機ふっ素化合物を吸収発色液中に捕集溶解させ、この溶液中のふっ素イオン濃度を吸光光度法によって測定する。測定周期は1 時間あるいは3 時間である。吸収発色液として、エリオクロムシアニンR・塩化ジルコニウム・塩酸混合溶液が使用され、ふっ素化合物を吸収した場合の褪色を測定する。測定を妨害するオゾン、二酸化硫黄、塩素、塩化水素、窒素酸化物などは、正の誤差を与え、アンモニアなどは負の誤差を与える。吸光光度法ふっ素化合物自動計測器の構成例を、図3に示す。

1.11.2 塩素化合物計測器

1. はしがき

 塩化水素ガスは、350 ppm 程度の濃度であっても、これを吸収すると喉、眼、鼻を刺激し10 分で息苦しくなるといわれており、多量に吸入するときは中毒死することがある。塩化水素ガスの許容濃度は、(社)日本産業衛生学会の基準では5 ppm が与えられている。塩化水素ガスは、大気汚染防止法では、煤煙中において窒素酸化物、カドミウム、鉛などとならんで有害物質として区分され、大気汚染防止施行規則第5 条において排出施設に対応し排出基準が定められている。特に昭和52 年(1977 年)6 月の施行規則の改正により、排出施設の数と排出量がともに多い廃棄物焼却炉から排出される塩化水素ガスの濃度は、排ガス中酸素濃度12 %に換算した時700 mg/Nm3 (約430 ppm)以下に規制された。
 塩化水素ガスの特性は, 表1 にその性質を示したとおり、水にきわめて溶けやすく、水分の存在のもとで多くの金属と活発に反応することから、測定上大きな制約条件となっている。

 廃棄物焼却排ガス中の水分濃度(20 %程度)はきわめて高く、ガスサンプリングシステムにおいては測定ガス露点を100 ℃以上として取り扱う必要がある。脱塩酸処理を行わないで、塩化ビニル系樹脂廃棄物を燃焼させた時には、塩化水素濃度が1000 ppm を超える場合もある。一方、廃棄物焼却炉には電気集塵機、脱塩酸処理装置が通常付設されており、粉塵濃度が5 mg/Nm3 程度、塩化水素ガス濃度は規制値以下である。廃棄物焼却炉排ガス中の塩化水素ガス測定においては、ガスサンプリングシステムも含め測定方式を選定する必要がある。
 排ガス中の塩化水素の濃度を連続的に測定する計測器については、JIS B 7984「排ガス中の塩化水素自動計測器」でイオン電極法が規定されている。同JIS は平成18年(2006 年)3 月に改正され、新しい測定方式として、試料非吸引採取方式(パスモニタ)、フーリエ変換赤外線分析計(FTIR)、希釈サンプリング赤外線吸収法が付属書とし て追加されている。また、排ガス中の塩化水素を分析する方法については、JIS K 0107「排ガス中の塩化水素分析方法」で、イオンクロマトグラフ法、硝酸銀滴定法、イオン電極法、イオン電極法連続分析法が規定されている。

2. 測定方式

2.1 イオン電極法

 表2 に JIS B 7984 に規定の塩化水素自動計測器の測定範囲、適用条件を示す。

 前述の塩化水素ガス及び廃棄物焼却炉の排ガスの特性から、焼却炉も含む排ガス中塩化水素ガス測定器として実用化されている計測器は、湿式の装置であり、塩素イオン選択電極を検出器とした方式が主なものである。塩化水素ガス計測器では、ガス採取、導管部も本体と一体と考え結露の防止のためガス流通部は、約120 ℃以上の加熱が厳密に行われるよう設計されている。図4 に、0 ~100 /1000 ppm 程度を測定範囲としたイオン電極法による塩化水素ガス計測器の構成例を示す。

1.11.3 硫化水素計測器

1.はしがき

 硫化水素は、製紙やパルプ工業、石油精製、石油化学工業など、広い分野で関連があり、有毒でかつ悪臭の強いガスである。悪臭防止法によって大気中濃度の許容限度が定められているほか、他の法律によっても種々規制の対象となっている。測定方式としては、試験紙光電光度法、赤外線吸収法、連続電量滴定法、隔膜電極法などがある。

2. 測定方式

2.1 試験紙光電光度法

 この方式は、酢酸鉛を含浸させたテープ状の試験紙に、試料大気を一定の流速で通過させ、硫化水素と反応して生ずる硫化鉛による褐色の濃淡の程度を光電的に測定し、硫化水素濃度を測定するものである。図5 に、その原理図を示す。

2.2 非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)

 硫化水素を二酸化硫黄に変換するコンバータと非分散形赤外線吸収法の二酸化硫黄計測器とを組み合わせ、さらにサンプルスイッチング方式を採用し極微量の硫化水素を測定する方式である。図6 に、その原理図を示す。試料ガスを二つに分割し、一方の流路に硫化水素を二酸化硫黄に変換するコンバータを設け、これを通過したガスを赤外線分析計の一つのセルに導入し、他方は直接もう一つのセルに導入する。一定時間後、弁SV1、 SV2 を動作させて、各セルに導入するガスを切り換える。この切り換えを周期的に行なうことにより、分析計の出力は、試料ガス中の硫化水素濃度に応じて変化する。その変化幅をとらえて測定値とすることにより、S/N 比を向上させ、干渉成分の影響やゼロドリフトを除去するようになっている。

2.3 連続電量滴定法

 試料ガスを二酸化硫黄スクラバに通して二酸化硫黄を除去した後、電解セルに導入する。電解セル内には硫酸酸性の臭化カリウム溶液が入っており、かつ微量の臭素を存在させてあるが、硫化水素と反応すると臭素が消費される。この臭素濃度の低下を、酸化還元電位の変化として検出し、この信号によって電解電流を流して臭素を発生させ、電解液中の臭素濃度が常に微少の一定濃度レベルに維持されるように、電解電流を制御する。臭素を発生させるための電解電流は、硫化水素濃度に比例するので、電解電流を測定することにより、硫化水素濃度を測定する。図7 は、その原理図である。

2.4 隔膜電極法

 図8 に示すように、電極は、検知電極と比較電極とを内部液と共に、硫化水素を透過する性質を持っている隔膜でカバーした構造となっている。電極が硫化水素に接すると、ガスが内部に透通し、内部液と反応して電位変化が生じる.図9 に、隔膜電極法による硫化水素計測器の測定構成例を示す。

1.11.4 アンモニア計測器

1. はしがき

 最近の排煙脱硝装置の発展はめざましく、特に乾式アンモニア還元法が有効な手段として知られ、実用化されている。アンモニアの消費量を少なくする目的や、二次公害(悪臭防止法によって、大気中濃度の許容限度が定められている。)を防止する目的、あるいは脱硝装置後段のエアヒータの閉塞を予防する目的のため、高感度アンモニア連続測定装置が製品化されている。
 測定原理としては、アンモニアが紫外線領域に吸収スペクトルを持っている性質を利用した紫外吸光光度法による方式と、酸化触媒を用いてアンモニアをNO に変換した後(あるいは還元触媒を用いて排ガス中のNOx を低減した後)、この一酸化窒素の濃度(あるいはNOx の減少分)を非分散形赤外線吸収法又は化学発光法によって測定し、アンモニア濃度を測定する方法とがある。
 なお、排ガス中のアンモニアを分析する方法については、JIS K 0099「 排ガス中のアンモニア分析方法」で、吸光光度法及びイオンクロマトグラフ法が規定されている。

2. 測定方式

2.1 紫外吸光光度法

 現在の計測器は、発生源用であり、自己変調吸収法が採用されている。図10 に示すアンモニアのスペクトルのうち、透過率の極小値の部分の波長λ0 と、この両側の極大値の波長λ1とλ2との間で波長変調をかけると(拡大図,図11(a)参照)、図11(b)に示す光強度変調信号が得られる。この光強度変調信号の振幅は、図11(a)の吸収の強さに比例するから、この振幅を測定することによりアンモニア濃度を測定する方式となっている。物理的な直接測定法であるため、①前処理装置が不要、②水蒸気による吸収のない紫外線波長領域を使用することにより除湿器が不要、③自己変調法の採用により他物質による干渉が少ないなどの点が特徴としてあげられる。

2.2 化学発光法

 特殊金属その他の還元触媒を用いて、排ガス中に共存するNOx とアンモニアを還元反応させ、その結果減少したNOx 濃度を化学発光法一酸化窒素計測器で検出し、等価的にアンモニア濃度として測定するものである。
 この方式では、還元反応前のNOx 濃度と反応後の濃度を測定する必要があり、2 台の一酸化窒素計測器を用いて両者を測定するものと、サンプリング系の切り換えにより、1 台の計測器で時分割的に両者を測定するものとがある。
 この方式によるアンモニア計測器は、発生源用計測器であり、煙道排ガス中のNOx も同時に測定できるように構成されている.

2.3 非分散形赤外線吸収法(NDIR 法)

 酸化触媒を用いてアンモニアを一酸化窒素に変換する。その後、これを非分散形赤外線一酸化窒素計測器に導き、アンモニア濃度として測定するものである。 試料ガスは、酸化触媒を通したガスと、通さないガスとに分けられ、おのおの試料セルⅠ及び試料セルⅡに導かれる(図12 参照)。試料ガス中にアンモニアが含まれていると、アンモニアが一酸化窒素に変化された分だけ赤外線吸収量に差が生ずるので、この差を測定することによりアンモニア濃度を測定することができる。
 また、この方法は、発生源用だけでなく、大気中アンモニア計測器にも応用されている。

1.11.5 試料非吸引方式による排ガス計測器

1. はしがき

 固定発生源用排ガス計測器としては、従来採取管を煙道等固定発生源に挿入し、試料ガスを外部へ取出し、除塵・除湿等前処理を行ない、その後SO2, NOx 等の検出部に導き成分の測定を行なう方式(試料吸引方式)が一般的であったが、近年煙道内の試料ガスに光を照射し、その透過光を測定する事によって連続的に濃度を測定する方式が海外から導入され始めてきた。
 計測器の測定方式としては、原理上からは波長非分散法と波長分散法に分けられる。また、煙道内の測定エリア上からは、煙道内を広い範囲で平均化して測定するトラバーサル法と、ある1 点を測定するポイント法に分けられるが、以下は代表的な例としてトラバーサル法のみについて述べる。図13 はその構成例である。

2. 測定方式

2.1 波長非分散法

 試料ガスに対し、測定対象成分の特異な吸収波長に合わせた半導体レーザなどからの単色光を照射し, その透過光の吸収量を測定し濃度を連続的に求める方式である。測定成分は、一酸化窒素, 一酸化二窒素, 一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、塩化水素、メタン、水分がある。
 この方式の特徴は、試料吸引方式に比べ、前処理装置がないので保守が不要な事、サンプリング導管等での測定成分ロスがない事、またレーザの使用と光路長が長くできるため低濃度までの測定が可能な事があげられる。アンモニア、塩化水素等反応性が強く、低濃度測定の必要がある成分測定については有用な計測器と言える。

2.2 波長分散法

 試料ガスに対し、キセノンランプなどの光を照射し、その透過光を分光して、測定対象成分の特異な吸収波長光を検出する事により濃度を連続的に求める方式である。測定成分は、二酸化硫黄、一酸化窒素, 一酸化二窒素, 二酸化窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、塩化水素、メタン、水分がある。
この方式の特徴は、波長非分散法とほぼ同じであるが、波長非分散法と比べ吸収波長を選択することで複数物質の同時測定が可能であるが、レーザを使用しない分、低濃度測定には不向きである。ガス校正についても波長非分散法と同様、煙道から外して行なう必要がある。

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