5-2-10 監視システム並びに装置

2.10.1 監視システム

1. はしがき

 水質汚濁の監視は、環境の汚染状況を把握する「環境監視」と、発生源における汚染物質の排出状況や管理状況を把握する「発生源監視」とに大別される。
 法律(環境基本法)によって、国民の建康を保護し、生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準、つまり環境基準が定められている。この環境基準を達成維持するため、事業場(工場や下水処理場など)に課せられているのが排水規制である。水質汚濁防止法では、これらを達成するために、都道府県知事に対し公共用水域の水質汚濁状況の常時監視の義務づけ(第15 条)、その公表の義務づけ(第17 条)、及び汚濁が著しくなるおそれのある場合の緊急時の措置の義務づけ(第18 条)があり、監視システムの設置が必要とされている。
 この監視は、主として、「環境監視」についてである。監視システムの導入により、公共用水域の水質汚濁の状況は改善されてきている。環境基準の設定されている有害物質については、基準がほぼ達成されているが、汚濁物質については、特に湖沼や内海、内湾等の閉鎖水域や都市部の河川の中では、依然として水質汚濁の著しいものがある。
 閉鎖性海域の水質改善には、その海域に流入する汚濁負荷量の削減が重要で、汚濁物質の環境基準の達成が、排水規制だけでは難しいと判断される場合においては、広域的に水質の総量規制が制度化されている。水質総量規制制度では、排水基準だけでは環境基準の達成が困難な海域として、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海を指定し、化学的酸素要求量(COD)の削減を目指している。この水質総量規制制度は、第84 国会において、「瀬戸内海環境保全臨時措置法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律」が成立し、水質汚濁防止法の一部を改正という形で制度化され、昭和54 年(1979 年)6 月13 日から施行されている。また、平成13 年(2001 年)12 月に施行された水質汚濁防止法施行令の一部改正により、第5 次水質総量規制が実施されている。
 第5 次水質総量規制では、COD の総量規制に加え、窒素・りんの総量規制が追加された。第4 次までの水質総量規制において、陸水からのCOD 総量は削減されてきたが、窒素・りんなどの栄養塩類により富栄養化が進み、COD の閉鎖性海域での内部生産が行われているため、赤潮・青潮などが継続的に発生していると考えられ、COD だけではなく窒素・りんの規制も追加された。
 さらに総合的な水質改善対策を一層推進するため、平成16 年(2004 年)4 月に中央環境審議会水環境部会総量規制専門委員会において、第6 次水質総量規制のあり方について議論がスタートし、これまでの水質総量規制同様、下水道の整備等の生活系排水対策、指定地域内事業所(日平均排水量が50m3 以上の特定事業所)の排出水に対する総量規制基準の適用、小規模事業所・農業・畜産業等に対する削減が検討されている。
 水質総量規制制度の概要は、次の通りである。
 (1) 指定項目
 総量規制で対象とする項目(汚濁指標物質)は、CODと窒素・りんが指定。
 (2) 指定水域
 総量規制で対象とする水域は、後背地に汚濁発生源が集中し、排水基準のみでは水質環境基準の維持達成を図ることが困難な広域的閉鎖性水域であり、政令で指定する水域は、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の水域が指定。
 (3) 指定地域
 総量規制がおよぶ地域は、原則として指定水域に流入する排水を発生する地域であり、政令で指定。東京湾:1 都3 県(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県)伊勢湾:3 県(愛知県、三重県、岐阜県)瀬戸内海:2 府11 県(京都府、大阪府、和歌山県、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、徳島県、奈良県、福岡県、大分県)
 (4) 計測・記録
 日平均排水量が400m3 以上の指定地域内事業場は、原則として、排出水のCOD と窒素・りんに関する汚染状態及び排出水量を計測し、その計測結果を記録するとともに、これらから汚濁負荷量を算出する必要がある。排出水の窒素・りんに関する汚染状態の計測方法としては、自動計測器による連続的な計測又はコンポジットサンプラにより試料を採取後、指定計測法で測定する、いずれかの方法によることとされている。
 以上、監視システムの法的根拠を中心に述べたが、以下システムを構成する装置については 1.10.1 大型監視システム、 その他を参照されたい。

2. テレメータ装置

 1.10.1 の技術解説を参照。

3. データ処理(周辺)装置

 1.10.1 の技術解説を参照。

4. 水質汚濁計測器

 2.1 ~ 2.9 の技術解説を参照。

5. 排水流量計

 2.11.1 の技術解説を参照。

6. 汚濁負荷量演算器

 2.11.2 の技術解説を参照。

2.10.2 水質自動監視装置(水質モニタ)及びその他の監視装置

1. はしがき

 水質自動監視装置は、主に、河川、湖沼等の水質測定に用いられる。一級河川の水質自動監視装置は、国土交通省が、また、二級河川、港湾等については、都道府県及び市が、それぞれ設置運用にあたっている。
 ここに、標準的な水質自動監視装置について概要を述べる。この装置の測定監視項目は、水温、pH、電気伝導率(導電率)、濁度、溶存酸素の5 項目である。
 水質自動監視装置は、選定された地点の監視所内に設置され、河川水等を連続的に自動採水して連続測定し、測定値を指示計に指示させるとともに記録計で記録する。さらに、測定値をテレメータ装置に接続して伝送し、事務所等でデータの作表、解析を行なうことが可能な装置である。

2. 水質自動監視装置(水質モニタ)

主な測定項目の測定方式、測定範囲、規格及び対象JISを表1 に示す。

水質自動監視装置(水質モニタ)の測定項目・方式・範囲・精度の表

 装置は、採水部、調整槽部、計測部、その他から構成されている。採水部は、河川水、又は工場排水を水中ポンプ等でくみ上げる部分である。調整槽部は、ポンプによって採水された試料水を調整する調整槽及び、これに附属するバルブ、配管類がおさめられている。計測部は、下部に試料水を通過させる検水槽及び標準液での計器校正用作業台を有している。上部には検出信号を増幅し指示させ、また、統一出力信号を出すユニット増幅器、その信号を記録する記録計ならびに採水及び検出器の洗浄を行なわせる洗浄制御信号部、さらに異常動作と異常値を知らせる警報表示部がある。
 水温、pH、電気伝導率(導電率)、濁度、溶存酸素の一般測定項目に、COD、全りん、全窒素を含む装置の系統図の一例を図1 に示し、以下に概要を述べる。

水質自動監視装置の系統図

 試料水は、選定された採水地点に設置された採水ポンプによって汲み上げられ、調整槽に送られる。調整槽では、オーバフローによって、その水面は一定レベルに保たれる。この試料水の一部は、調整槽のフィルタにより大きなゴミなどの異物が除かれた後、一般測定項目の検水槽、COD、全りん、全窒素の各計測器に送られる。検出槽に は、水温、pH、電気伝導率(導電率)、濁度、溶存酸素の検出端が装着されている。これらの検出端から、各測定項目の測定値に比例した電気信号が、それぞれのユニットの増幅器に送られる。各ユニット増幅器から記録計用出力やテレメータ用出力等が発信される。また、それぞれの測定項目ごとに、上限、下限又は上下限の警報設定を行うことができる。測定値がこの設定値を越えた場合は、測定値異常として警報表示盤にランプ表示すると同時にブザーを鳴らす。洗浄制御部は、装置の長期間運転に対処するため、一定時間ごとに採水ポンプ系の逆洗浄及びエアージェット洗浄を行なう指令を出す。また、検水槽内にも水ジェット洗浄を行なう指令を出す。さらに、保守中には、伝送出力に保守中信号を送るようになっている。
 水質自動監視装置の設置にあたって重要なことの一つに、採水工事がある。まず、水質を代表する地点を選定すること、短時間に検水が調整槽に導入されること、増水期にも採水し得ることなどが上げられる。このための採水の例を図2 に示す。

採水の例

ここで、
 (A)は、河床に打ち込んだパイルで組まれた架橋に水中ポンプ及び配管などを支持させた場合、
 (B)は、既設の橋脚及び橋げたを利用して水中ポンプ及び配管などを取り付けた場合、
 (C)は、水深の深い湖沼などにおいて水深の異なった点から採水を行なう場合で、いずれもポンプの保守方法を十分考慮に入れる必要がある。

3. その他の監視装置

3.1  水質監視の目的によってはCOD、TOC、油分、有害重金属などの自動計測器を併置する場合があるが、これらは、2.4 項、2.5 項、2.8 項、2.9.4 項を参照されたい。
 3.2  その他簡易水質計として、携帯用簡易水質チェッカーがある。
 a) 1 項目の専用器のもの
 b) 水温、pH、溶存酸素、電気伝導率(導電率)、濁度等の多項目測定用で検出器が1 本のホルダにまとめられているもの
 c) 比色法、滴定法によって多項目の測定ができる装置一式が、小型トランクにすべて収納されていて、重金属、その他の項目が測定できるもの
 3.3  浄水場原水のアンモニア、シアン、油膜等の監視装置がある。また、第5 次水質総量規制により、下水処理場処理水の水質(全りん、全窒素等)監視装置等が広く普及している。
 3.4  石油精製工場や石油化学工場においては、タンクの集中管理システムが採用されるようになってきた。これにともない、液面レベルやタンク内温度の保安監視のための遠方監視システムも使用されている。
 3.5  水道水の水質モニタ(監視装置)は、水道管路網末端の水質(残留塩素、濁度、色度、水圧、pH、電気伝導率(導電率)、水温等)を同時に測定するものである。現在、7項目の測定ができて、小型の盤に入るようにコンパクトにまとめたタイプもあり、通信機器を盤内に収納し、遠方で連続監視することもできる。一例を図3 に示す。

水道水用水質モニタのフロー例

3.6  太陽電池、携帯電話網を利用した湖沼・河川等の水質測定装置がある。携帯電話網を利用しているので、水質異常を即座に携帯電話に送ることが可能である。また、監視所の建設や採水工事が不要なため、構成が簡単になる。

目次へ
ページトップへ