5-2-1 pH 計測器及びORP 計測器

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1. はしがき

 水質汚濁のもっとも基本的な指標の一つとして、従来からpH が取り上げられている。
 pH とは、水の酸性及びアルカリ性の度合を示す指標である。たとえば、純水はpH がほぼ中性であり、これよりpH 値が小さいときは酸性、大きいときはアルカリ性である。pH 値は、特定の汚染度を示すものではないが、金属の腐食に大きな関係があるほか、水棲動植物の生活(浄化能力)を左右する。また、水中の沈でん物の溶解や生成、農作物や水産物の育成に関係する。公共用水域の河川水のpH 値は、大体6.0 ~ 8.5、海水では大体7.8 ~ 8.3 である。
 ORP(Oxidation Reduction Potential:酸化還元電位)は、試料中の酸化・還元物質の量を示す指標として用いられている。この電位は、温度、pH、電気伝導率(導電率)によって変化することが多いので、汚濁水では、水中に強力な酸化又は還元物質が存在する場合の相対量の測定のみに有用である。たとえば、シアン系廃液の酸化処理、クロム酸系廃液の還元処理などで、酸化還元物質の処理反応終結を知る管理指標として用いられている。単位は、mV である。

2. 測定方式

 pH の測定方式には、ガラス電極法、比色法、アンチモン電極法、キンヒドロン電極法などがあるが、JIS Z8802 「pH 測定方法」では、ガラス電極法について規定しており、市販品は、ほとんどがこの方式である。しかし、連続測定で、試料中にふっ素成分が含まれ、ガラス電極の膜が溶解し特性が短時間で劣化する場合や、試料中に硫化物、過酸化物など酸化還元性イオンを含むとか、酒石酸、クエン酸、しゅう酸などの強い錯体形成物質を含む場合には、アンチモン電極が用いられることもある。但し、この方式によるpH 測定範囲は、pH2 からpH12 までで、これ以外は直線性が得られず、また測定温度50 ℃以上では指示が不安定になる。また、連続的な自動測定はできないが、簡単な測定方法として、とくにガラス電極が適用できない場合などに比色法が用いられることがある。
 この方式は、pH があらかじめ分っている一連の緩衝液を標準として、これらの水溶液に指示薬を加えて発色させ、これらの色と同じ指示薬を同様に試料に加えて発色させた色とを比較して、試料の概略のpH を測る方法である。この方式は、簡単な測定に適用できるが、試料の色、濁り、酸化剤(遊離塩素など)、還元剤、高濃度塩類などの妨害を受け、誤差を生じやすく、又、緩衝作用の小さい試料(たとえば純水など)には適用できない。
 ORP 測定は、pH 測定とほぼ同様で、センサとしてガラス電極の代りに金属電極(金、白金など)を用い、比較電極はpH 測定用と同じものを用いる。

2.1 ガラス電極法

 ガラス電極法は、図1 のようにガラス薄膜の両側に二種の異なった溶液が接したとき、両液のpH の差に比例した電位がこのガラス薄膜の両面に発生することを利用したものである。

ガラス電極法の原理図

 ガラス電極のガラス膜の内側と外側の溶液のpH をそれぞれpHi 及びpHo とすれば、その間の電位差Eq は次式で表わされる。

電位差とpHの関係式

 ここに、

 R:気体定数
 T:絶対温度
 F:ファラデー定数
 Eas:ガラス電極と比較電極との固有電位差
 K:電位勾配係数

 上式で、電位勾配係数K=1.00のときの2.303 RT/Fは、理想的なガラス電極の勾配で、「pH 当りの起電力」と称され、59.16 mV(25 ℃)である。この値は、温度T(K)によって変わる。実際のガラス電極のpH 当りの起電力は、上記の理論値とは必ずしも一致せず、ふつう小さい値になる。JIS Z 8805 「pH 測定用ガラス電極」では、58.40 mV(25 ℃)まで許容されている。実際の測定時には、2 種類の標準液を用いてpH 計測器の感度調整で補正を行う。Eas は、個々のガラス膜に固有の値で、pH7の起電力と呼ばれ、ガラス膜内外面の極性により発生する電位である。実際の測定時には、この電位に、さらにガラス電極と比較電極を組合せたとき、両電極の内部電極電位の差と、比較電極液絡部における液間電位差が加わる。これらを一括して、見かけ上のpH7 の起電力といい、実用上pH 計測器の電気回路で調整する(マイコン内蔵計器の場合ソフトで対応)。このpH7 の起電力はJIS Z8805「pH 測定用ガラス電極」では、± 30 mV(25 ℃)と規定されている。
 ガラス電極部は、最近では先端部の厚い電極応答部とすることで、大きな強度を得ることを可能にして応答部が破損しにくい電極が市販されている。また、熱特性の点で、従来のガラス加工技術では困難であった鉛フリーガラスの採用も可能となってきている。
 ガラス電極に発生した起電力を取り出すために、比較電極が用いられる。現在、比較電極として市販されているものは、塩化銀形電極が一般的である。比較電極の内部電極は、ガラス電極の内部電極と同種のものを用いる必要がある。たとえば、ガラス電極の内部電極がカロメル電極で、組み合わされた比較電極が塩化銀電極であると一見動作はするが、pH 計測器を校正した後に、試料に温度変化があれば測定値は大きく狂うことになる。また、比較電極内部液のKCl 濃度も、ガラス電極の内部液と同濃度のものを用いる必要がある。さらに、比較電極で注意の必要なものに液間電位差がある。液間電位差は、比較電極内部液と試料とが液絡部で接触する際、組成濃度が異なるため陽イオン・陰イオンの拡散速度の差によって不安定な電位が生じ、pH の測定値に大きな影響を与えるので、この値をできるだけ小さく、かつ一定にする必要がある。このため、比較電極の液絡部は、試料の特性に応じて各種のものが作られている。セラミック形、スリーブ形、ファイバ形、ピンホール形などが代表的なものであるが、最近は内部液に塩化カリウムを用い、スラリ又はゲル状にしたものを使用している比較電極もある。また、最近では使用中に銀/塩化銀電極より銀イオンが溶出し、被検液中に含まれる物質が銀イオンと反応して難溶性の沈澱物となり液絡部に付着することを解決するため、イオン交換剤を用いた銀イオントラップ機構をもつものもある。
 ガラス電極のpH 当りの起電力が、温度に比例して変化することは前に述べた。これを自動的に補償するために、温度補償電極を用いる。温度補償電極を使用しない場合は、増幅指示部側に手動温度補償機能が設けられている。温度補償電極の感温抵抗体には、サーミスタ、ニッケル線、銅線、白金測温抵抗体などが用いられている。抵抗値は、各製品により異なる場合があるので、増幅指示部との組合せに注意を要する。ガラス電極と比較電極で取り出された電位差は、高入力抵抗の電位差計(増幅指示部)で測定し、指示を得る。pH 計測器の校正には、JIS K0018 ~ 0023 及びJIS Z 8802 に定められたフタル酸塩、中性りん酸塩、ほう酸塩などの標準液が用いられる。
 ORP 測定は、試料水中で次式に示す金属電極と比較電極の間に生じる電位差を、電位差計で測定する。

ORP測定における電位差の関係式

 ここに、

 n:価数
 〔Ox〕:酸化体の活量濃度
 〔Red〕:還元体の活量濃度
 E0: 酸化体と還元体の活量濃度が等しいときの単極電位
 R:気体定数
 T:絶対温度
 F:ファラデー定数

3. 構  造

  pH(ORP)計測器には、定置型と携帯型、卓上型とがあり、それぞれ用途に適した機能を持っている。以下に、それぞれの構造及び特徴を述べる。

3.1 定置型

  定置型は、屋外の排水溝、廃液処理装置など測定場所近くに設置し、連続測定を行うもので、パネル取り付け形と現場設置形がある。いずれも、周囲条件に対する耐久性、動作の安定性を向上させるとともに、保守回数を低減するなど、連続測定用に設計されているが、回路の基本は、携帯型、卓上型と大差ない。
 検出部に要求されることは、比較電極の内部液補充回数が少ないことと、電極部の汚れ対策である。前者に対しては、比較電極液絡部で液間電位差が小さく安定で、かつ内部液の流出量が少ない構造が研究されてきた。また、内部液の補充を検出部に設けられたヘッドタンクから比較電極に自動補給する方法もとられてきた。最近では、液絡部の構造を改良し、特殊な材料を用いることにより、内部液の流出量をきわめて少なくしたものも作られている。後者に対しては、保守を容易に行うための軽量化と電極部の汚れを防ぐため自動的に電極の洗浄を行う洗浄器(超音波式、ブラシ式、水ジェット式、薬液式など)を付加した検出部が作られるようになった。いずれの洗浄方式も、試料中の付着物や試料の条件によって洗浄効果が異なるため、適切な方式を選定することが重要である。各種洗浄方式については、2.11 その他の水質汚濁用関連機器の表2 を参照されたい。
 電極ホルダは、開放槽や開渠に設置する浸漬形とパイプラインに組込む流通形があり、両者共、接液部の材質は試料の条件(腐食、温度など)に適するよう種々のものが用意されている。その主なものは、PVC、ステンレス鋼、ポリプロピレンなどである。また、水配管や電気配線を必要とせず、流体の流れを使い自己洗浄する「フロート型」や、洗浄が難しい下水処理場の嫌気槽・無酸素槽にも適用できる「研磨型」というタイプもある。
 増幅指示部は、検出部と直結されたものと分離されたものとがある。増幅指示部に供給する電源は、通常計器室などに別置された電源箱から直流(たとえばDC24V など)で供給する(2線式伝送器)タイプと直接100AVC 電源で供給する(4 線式変換器)タイプがある。
 この電源箱は、記録計用出力を持ち、さらに警報回路を持つものもある。基本的構成例を図2 に示す。

pH計測器の基本構成例

 このほかに、記録計にpH 専用増幅器を内蔵したもの、指示計(記録計)内にON-OFF 又は比例などの調節機構を組込んだもの、爆発危険場所で用いられる本質安全防爆構造のもの、ガラス電極、比較電極、温度補償電極を一体とした電極の内部に、さらにプリアンプと電池が内蔵されたもの、校正操作を電極洗浄、電極特性の判断、pH7及びpH4 による校正、測定に至るまでマイコンで自動化したものも作られている。プリアンプ内蔵のものは、インピーダンス変換されているので取扱いが容易である。また、自動校正機構付のものは保守作業が大幅に省力化できる特徴がある。

3.2 携帯型、卓上型

 大きく分け、持ち運びが便利なように、小型・軽量で電池電源にした携帯型と、研究室、試験室の卓上において使用し、高精度測定に重点を置いて設計した卓上型がある。両者とも、検出部には、ガラス電極(ORP 測定の場合は金属電極)、比較電極、温度補償電極(手動温度補償の場合及びORP 測定の場合は不要)の三本が一組となって用いられるが、最近の傾向としてガラス電極と比較電極、あるいは、上記三本の電極を一体化した複合電極が、取扱いの容易さから多く用いられている。
 図3 に、その構造の一例を示す。携帯に便利なよう検出部を小さくまとめ、ガラス電極を小型化し、交換の容易なカートリッジ式にしたものも製作されている。ガラス電極、比較電極には使用温度範囲があり、一般に高温用と常温用に区別されている。

複合電極の構造

 増幅指示部は、電極からの電気信号を増幅し、指示計又はデジタルメータで測定値を表示する。増幅器は直流増幅方式、電源は直流(電池)、交流、変直両用のいずれかである。
 一般に卓上型は、高精度測定を目的として設計されており、デジタル式では最小表示が0.01 pH や0.001 pH のものもある。また、測定対象がpH(ORP)のほか、温度などの測定機能を持ったものや、マイコンを内蔵し校正操作など容易にしたもの、pH 滴定のさい、pH 変化速度をとらえやすく、終点読み取りを容易にしたアナログとデジタルの両表示機能を持ったものも市販されている。

4. 選定条件

4.1 定置型

 試料の温度・圧力・組成などによって、電極やホルダ材質を選定する。また、電極に試料中の懸濁物が付着し、測定不能になる場合には、適当な洗浄機構が付加されたホルダを使用する。比較電極液絡部の選定は、携帯型、卓上型の場合と同様である。増幅指示部は、設置場所が、屋内か屋外かによって屋内形、防滴形、防水形のいずれかを、爆発危険地域で使用する場合は、防爆構造のものを選ぶ。測定場所と計器設置場所が離れる場合には、この間の距離も問題になる。電極出力を直接ケーブルで伝送する場合の伝送距離は、通常100 m 程度以下であり、電源箱分離形の二線伝送式では通常1 ~ 2 km 以下である。出力信号を他の受信計器(指示計、記録計、データロガーなど)へ接続する場合は、入出力絶縁形を使用する必要がある。

4.2 携帯型、卓上型

 使用目的や用途に応じ、選定することが重要である。とくに、比較電極液絡部における液間電位差の大きい試料(有機性溶液、内部液に対して大きな濃度差を持つ溶液、電気伝導率(導電率)の低い溶液など)を測定する場合は、一般に液絡抵抗の小さい比較電極を選ぶ必要がある。また、自動温度補償付きpH 計では、液温度の変化に対して温度補償電極の応答が若干遅れるので、測定時には注意が必要である。比較電極とガラス電極の内部電極が異なるものを組合せて使用することは、なるべく避けるべきである。。

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