5-2-5 TOC 計測器

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1. はしがき

 TOC(Total Organic Carbon:全有機体炭素量)は、JIS K 0102「工場排水試験方法」によると、「水中に存在する有機物中の炭素の量をいう」と定義され、排水中の有機性汚濁の程度を表す一つの指標として提唱されている。
 BOD、COD、TOD は、酸素を基準とした指標であり、水中の汚濁物質( 主に有機物) を分解・燃焼するときに必要とされる酸素量を測定するのに対し、TOC は炭素を基準とした指標で、水中の有機体炭素量そのものを測定できる。また、法令で定める有機汚濁指標であるBOD、COD との相関が得られること、通常4 ~ 5 分周期の短時間で、あるいは連続的に分析結果が得られ、測定結果の自動記録・分析出力信号の工業的計装への応用が可能である。また、TOC は、平成16 年(2004 年)4 月の水道法の一部改正により、水道水の水質基準項目として採用されている。
 TOC 計測器は、水道水原水の水質監視や総量規制用自動計測器、各種産業工程中の有機物含有量の管理、河川・湖沼・海域における水質の常時監視、事業場排水の水質常時監視、排水処理設備の運転管理、排水処理実験や排水処理装置の評価、分析室における検査分析などの用途に用いられている。なお、水中のTOC の濃度を連続的に測定するためのTOC 自動計測器について、JIS K 0805「有機体炭素(TOC)自動計測器」が規定されている。
 以下に、環境測定用TOC 計測器の測定方式及び特徴について述べる。

2. 測定方式

 試料を一定酸素濃度のキャリヤーガスとともに、高温、触媒存在下で燃焼させ、燃焼ガス中の炭酸ガス(CO2)濃度を、非分散形赤外線分析計(NDIR)で測定し、試料水の有機体炭素濃度を求めるのが一般的である。有機物の燃焼は次式によって行われる。

化学式(有機物の燃焼)

 なお、試料中の溶存炭酸ガスや炭酸塩、炭酸水素塩などの持つ無機炭素(Inorganic Carbon : IC)は、次のように熱分解して炭酸ガスを発生し、TOC 測定の妨害となるので、その影響を除くよう考慮されている。
 〔炭酸塩の熱分解〕
 MeCO3 → MeO + CO2
 〔重炭酸水素塩の熱分解〕
 2MeHCO3 → Me2O + 2CO2 + H2O
 (Me:金属原子)

 TOC 計測器は、試料の前処理(IC の妨害対策)の方法により、1 チャネル法と2 チャネル法に大別できる。1つのチャネルで、試料中のIC のみを除去した後、TOC計測を行うのが1 チャネル法である。一方、試料を2 つのチャネルに分けて、片方ではIC の抽出を行い、もう片方は、そのまま試料を検出部へ注入して、全炭素量(Total Carbon:TC)を計測しTC とIC の差分としてTOC を求めるのが2 チャネル法である。連続モニタリングを目的とするTOC 計測器のほとんどは、1 チャネル法をし2 チャネル法は、主として実験室用途のTOC 計測器に採用されている方式である。

2.1 1 チャネル法

図1 に、1 チャネル法TOC 計測器のフローシートを示す。

1チャネル法TOC計測器のフローシート

 各ガス精製部でキャリヤーガス及びパージガス中の不純物を除き、流量制御部にて所定の圧力及び流量に設定する。IC 除去部にて、酸溶液貯留部に貯蔵された塩酸又は硝酸などを添加してpH2 ~ 3 とし、パージガスを通気してIC を除去した後、一定量を燃焼部へ滴下・注入する。燃焼部では、滴下された試料を燃焼させ、有機体炭素をCO2 に酸化する。燃焼部は、高温度(600 ~ 1000 ℃)を保持する電気炉、温度調節器、炉内に設置された触媒充填管から成る。
 触媒には、白金、アルミナあるいは酸化コバルトなどが用いられる。さらに、除湿・除じん部で燃焼ガス中の水分及び粉じん除去等を行い、CO2 検出部(NDIR)部にて燃焼ガス中のCO2 濃度を測定する。信号処理部では、NDIR の電気出力とTOC 濃度の直線化などを行い、記録部では、TOC 値を記録する。

2.2 2 チャネル法

図2 に、2 チャネル法TOC 計測器のフローシートを示す。

2チャネル法TOC計測器のフローシート

 キャリヤーガス精製部でキャリヤーガス中の不純物を除き、流量制御部でキャリヤーガスを所定の圧力及び流量に設定する。試料定量注入部では、試料の一定量を燃焼部、IC 抽出部に注入する。通常マイクロシリンジなどによる自動注入が行われている。IC 抽出部では、85 %のりん酸に浸した石英チップなどを充填した反応管を150 ℃程度に加熱して、試料を注入し低温で反応させ、IC を抽出する。燃焼部では、滴下された試料を燃焼させ、有機体炭素をCO2 に酸化する。燃焼部は、高温度(600~ 1000 ℃)を保持する電気炉、温度調節器、炉内に設置された触媒充填、管から成る。
 触媒には、白金、アルミナあるいは酸化コバルトなどが用いられる。除湿・除じん部では、燃焼生成ガス及びIC抽出ガスの中の水分及び粉じん等を除去し、CO2 検出部(NDIR)にて燃焼生成ガス又はIC 抽出ガス中のCO2 濃度を測定する。記録部では、IC 又はTC の値を指示記録させ、TC - IC = TOC を求める。

3. 使用上の留意点

3.1 無機塩類

 無機塩類がTOC 値に直接影響を与えることは少ないが、触媒表面や燃焼管下部に蓄積してくると、ゼロ指示値やスパン指示値が変動し計測値のバラツキが多くなる。したがって、無機塩類を多く含む試料を計測する場合には、一般に燃焼管や触媒の保守周期が短くなる。この影響を除くために、燃焼管や触媒の自動洗浄機能付加等の処置を講じた計測器もある。

3.2 揮発性物質

 TOC 自動計測器では、水に可溶な有機化合物のほとんどがTOC として計測できるが、揮発性で水に対する溶解度の小さい物質(ベンゼン、シクロヘキサン等)は、無機体炭素除去処理の過程で揮散してしまうために、ほとんどTOC として計測されない。揮発性であっても水に可溶な物質は、一般的に問題を生じない。

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