1-4-3 バッチ制御システム

 プロセス産業の一翼にバッチ釜(反応釜、混合槽、醗酵槽、など)などのように、回分式に製造するバッチプロセスの製造設備がある。連続プロセスが石油化学の上流に位置していたのに対し、バッチプロセスは石油化学の下流のファインケミカル、薬品、食品などの分野の主たる製造プロセスである。

 バッチプロセスの製造設備に用いるバッチ制御システムはバッチの手順制御(シーケンス制御)を実現するハード機器の歴史からその変遷を辿る。
 なお、バッチプロセスの概念の標準化は米国のISA(The International Society of Automation)でANSI/ISA規格(S88規格)として開発され、順じIECに提案されて国際規格化(IEC 61512)がなされている。

3.1 バッチ制御システムの歴史的変遷

1970年まで
 有接点を持ったリレーを使い、ラダー回路を構成して手順制御を実現した。有接点の信頼性が問題となり、クロスバ電話交換機に使われていたワイヤスプリングリレーも使われることがあった。最大の問題は手順制御を変更する場合は、その都度に実配線を変更しなければならず、大変手数のかかる装置であった。

1970年~1975年
 バッチプロセスの大型化に伴い、不具合が発生してバッチをおしゃかにすることが許されない製造プロセスが建設されるようになると、有接点リレーに代わって、半導体を使った無接点リレーが使われた。しかし、やがて新しく誕生したマイクロプロセッサが製造装置の制御システムに使われるようになり、プロセスの無接点リレーが使われた期間は比較的短いものとなった。

1975年以降
 マイクロプロセッサを使ったDCS(デジタル制御システム)が登場すると、バッチの手順制御はこのデジタル制御システムが担うことになった。また、方や、手順制御の専有機器としてのPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)は小規模のバッチ制御に用いられるようになった。

  • DCS;3章 ディジタル計装制御システム(分散形制御システム:DCS)を参照。
  • PLC;5章 PLC計装制御システム を参照。

3.2 バッチ制御の標準化

 S88規格として知られているバッチプロセスの概念(プロセス、装置、制御、管理を含む)は、ISAの場にバッチプロセスの製造に関わるユーザ、エンジニアリング、メーカが1988年にSP88委員会を起こして、研究と標準化を進めている。研究・標準化の成果はANSI/ISA規格(S88規格)となり、ほとんどS88規格の内容でIEC/TC65/SC65Aにて国際規格(IEC 61512)として審議されている。

  • パート1;モデル及び用語
  • パート2;データ構造および言語ガイドライン
  • パート3;原処方およびサイト処方、モデルおよび表現
  • パート4;バッチ記録
  • パート5;装置インタフェース手順要素

3.3 JIS C 1807 バッチ制御―第1部:モデル及び用語

 バッチ制御の規格制定の経緯及び趣旨を日本規格協会発行「JIS C 1807 バッチ制御―第1部:モデル及び用語(2002)」から抜粋して、下記に紹介する。

<JIS C 1807 バッチ制御―第1部:モデル及び用語(2002)制定の経緯及び趣旨>

 バッチ制御システムに関する国際標準は、ISA(International Society for Measurement and Control)が中心にして標準化作業が行われてきました。1988.10 ISAにSP88(Standard Practices88)が創立され、それに対応するようにIEC TC65/SC65A にWG11 バッチ制御システムが作られました。

 1995年にISA S88.01 Batch control Part1: Models and terminologyが規格化され、これを受けた形で、1997 年にIEC 61512-1 Batch control Part1: Models and terminology が制定されました。そのような中、日本学術振興会 プロセスシステム工学第143 委員会 ワークショップNo.20(運転管理のためのバッチプロセスのモデリング)/WG3 標準化分科会は、IEC 61512-1 の有効性を評価し、モデル及び用語を標準化することのもたらすメリットからJIS化への要請を、(一社)日本電気計測器工業会に行いました。これを受けて、IEC TC65/SC65A/WG11の国内対策委員会の窓口である、(一社)日本電気計測器工業会は、バッチシステム規格化検討WGを設け、日本語化の作業を進めJISとして制定されました。

 IEC 61512-1 の序論には、この規格の目的、意図として次のことが述べられています。

 この規格で定義されるモデル及び用語は、次のことに使われます。

  • バッチ製造プラントの設計及び運転に関して行うべきことを明確にすること。
  • バッチ製造プラントの制御の改善に使うこと。
  • 自動化の度合いに関係なく適用すること。
    特に、この規格がバッチ製造プラント及びバッチ制御に関する標準用語、一貫した概念とモデルとを提供することで、関係する当事者間の意志疎通を改善し、次のことを可能にします。
  • 新製品が完全な生産レベルに到達するまでの時間を短縮すること。
  • ベンダーがバッチ制御を実用化する適切なツールを提供すること。
  • 使用者が要求を十分に規定すること。
  • 制御システム技術者の補助無しでも処方を開発できるようにすること。
  • バッチプロセスを自動化するコストを削減すること。
  • ライフサイクル全般にわたるエンジニアリング負担を削減すること。
    また、この規格は次のことを意図していません。
  • バッチ制御を導入又は適用する唯一の方法が存在すると示唆すること。
  • 使用者にバッチプロセスで現在使用中の方法を捨てることを強制すること。
  • バッチ制御分野での発展を阻害すること。

3.4 S88入門/バッチシステムをよりよくデザインするために

 日本学術振興会 プロセスシステム工学第143 委員会 ジャパンバッチフォーラムでは、日本国内でS88規格の普及を図るためにりんごジュース製造をモデルにした「S88入門」を作成し、Web上で、無償で公開している。

  • S88入門の公開Web:http://jbf.pse143.org/files/s88nyumon.pdf
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