7-3 工業用無線の導入

menu

1. はしがき

 無線は通信媒体に電波(空間)を利用するため、移動体との通信や設置場所の柔軟な変更など自由度が高い特徴がある。一方で、有線通信と比べ電磁ノイズや障害物などの使用環境の変化により通信性能が影響を受ける場合がある。
 そのため、工場に無線を導入してアプリケーションの要件を満たすように性能を引き出すためには、適切な導入手順に従い、無線方式の選定、ネットワーク設計、設置と調整を行う必要ある。本編では無線の導入手順の各項目において実施する作業の概要について解説する。

7-3-2 工業用無線の導入

 工業用無線を導入して通信の信頼性を確保するためには、電波の特性を理解して通信経路を設計することが大切である。その理由として、無線通信では使用環境による通信経路の状態変化が生じ、屋外のプラントや工場建屋内の環境下ではその影響を受けやすいことが挙げられる。図に無線通信の伝送路すなわち、電波伝搬に関わる通信エラーの外的要因をまとめた。
 高い通信性能を引き出すためには、適切な導入手順を習得しておくことが大切である。

無線通信の伝送路における通信エラーの外的要因

図7-3-3-2 無線通信の伝送路における通信エラーの外的要因

7-3-2-1 無線システムの導入フロー

 工業用無線システムを導入する場合は、ユーザの要望事項や製造現場の環境を把握し、「アプリケーションの要件分析」を行い、「無線方式の選定」、「現地環境の評価」、「無線ネットワークの設計」、「設置と調整」の手順を得て「運転とライフサイクル管理」を継続的に行うことになる。

工業用無線の導入フロー図7-3-3-2-1 工業用無線の導入フロー

7-3-2-2 アプリケーションの要件分析

 お客様の要望事項や現地調査の結果や入手した設置環境の図面などを元に、アプリケーションの要件をリストアップする。要件には、無線通信に関わる、「伝送距離」、「消費電力」「伝送速度」、「消費電力」、「許容遅延」などが含まれる。これらの要件事項やその優先度を明確化することで、後述の無線方式の選定時の判断基準が定まる。


7-3-2-3 無線方式の選定

 アプリケーションの要件に合致した無線方式を選定する。無線方式により、機能や性能は異なり、一般に、「伝送距離」、「伝送速度」、「消費電力」の間にはトレードオフの相反関係があり、これらの3つの要件を同時に満足することは難しい。

機能要件のトレードオフの例図7-3-3-2-3-1 機能要件のトレードオフの例


 例えば、伝送距離を延ばして広域の計測データを収集する場合は、低消費電力機能を優先し、伝送速度(高い周波数帯での広帯域通信)は犠牲にすることで、LPWAの無線方式を選定することができる。工場内の当該プロジェクトに最適な無線方式を選定するには、アプリケーションに求められる、伝送距離、伝送速度、消費電力(バッテリ交換周期)などの要件を明確にするとともに、それぞれの無線方式の特徴や仕様を把握したうえで、製品のラインアップなど付随する要件を鑑み、比較検討していくことが望ましい。

無線方式の選択例図7-3-3-2-3-2 無線方式の選択例

7-3-2-4. 現地環境評価(サイトウオーク)

 一般にプラントや工場では、無線通信の伝送路の状態変化が、通信エラーを引き起こす要因となることがある。現地環境評価(サイトウオーク)では、無線機器の設置個所の周辺の電磁ノイズや他の無線システムの通信状況などの電磁環境の状態や、通信経路を遮蔽する障害物の有無などを目視やプラント設備のCADデータなどから把握し、無線ネットワーク設計に必要となる情報を収集する。電磁環境調査では、スペクトラムアナライザなどの測定器を用いて、導入する無線システムが利用する周波数帯の電磁環境や電波利用状況を可視化することが有効である。

スペクトラムアナライザによる電波の見える化図7-3-3-2-4 スペクトラムアナライザによる電波の見える化

7-3-2-5 無線ネットワークの設計

 現地環境評価により得られた無線機器の設置環境(室内/室外、プラント設備の設置状況、広さなど)や工業用無線のアプリケーションの仕様に基づき、無線機器の設置位置、通信経路、通信周波数(チャネル)、通信手順(データ更新周期、再送回数など)などのネットワーク仕様を決定する。

7-3-2-5-1 設置位置(通信距離)

 無線センサを設置したい位置と、通信距離性能からアンテナの選定(利得、指向性)や中継器の要否やその配置位置などを検討する。
無線ネットワーク設計時には、無線機器の送信出力仕様と受信感度限界の仕様をもとに後述の通信回線のマージンの机上計算を行い、アンテナの選定や、中継器の配置検討を行うことで、安定した無線通信を維持するためのネットワーク設計が可能となる。

7-3-2-5-2 通信経路(障害物)

 工場やプラントなど工業用無線が利用される環境では製造装置などの障害物が通信経路に多数存在することが想定される。アンテナ高さの調整やネットワークトポロジーにより障害物を回避して見通しを確保できるように通信経路の設計を行う。

7-3-2-5-3 通信周波数(干渉)

 同じ周波数帯を利用する他の無線システムの無線信号の干渉や、誘導雷や設備から発生する通信周波数帯のノイズも信号品質を悪化させる要因となる。
 そのため、あらかじめ無線システムを導入する環境の電波状況を把握し、ノイズや他の無線システムが利用している周波数帯を避けて「通信チャネル」を割り付ける通信周波数の設計を行う。

7-3-2-5-4 通信性能の検証と調整

 無線システムを導入するアプリケーションの要件にあった通信性能を満たすように通信パラメータの設計を行う。通信性能の評価指標として遅延時間やスループットなどが挙げられる。通信性能のネットワーク調整パラメータとして、送信時間、休止時間、再送、ネットワークトポロジーなどがある。ネットワークシミュレーターなどを活用し机上で、通信性能の指標を満たすよう、ネットワークのパラメータを調整する。

7-3-2-6 設置と調整(コミッショニング)

 設置と環境評価(コミッショニング)では、無線システムの試運転を行い、設計によるネットワーク仕様を実環境下で調整して最適化する。
 具体的には、パケットエラー率(PER)、受信レベル(RSSI)、再送回数などの電波監視指標を監視し、監視指標を元に指標変化の要因を除去することや回避することができるように、設計したネットワーク仕様を調整する。

7-3-2-7 運転とライフサイクル管理

 ここでは実運転に入った後の無線システムの運転とライフサイクル管理について述べる。定期的に同じ電波環境指標の状態を監視して管理値内に入っていることの確認など無線通信アプリケーションの共存管理と共に、バッテリ駆動の無線通信機器のバッテリ交換等のメンテナンスも必要となってくる。電波環境指標の状態を監視して管理値を超えた場合、再度、設置と調整(コミッショニング)の作業を行う。

7-3-2-7-1 バッテリ交換

 無線通信機の電源は、設置場所で電源が取得できるかにより、電源駆動とバッテリ駆動に分類される。電源を喪失すると無線通信が途絶えてしまうため、バッテリ駆動の場合、無線通信機の消費電力や通信頻度をもとにバッテリの交換時期の推定や、無線通信機によるバッテリの監視機能をもちいてバッテリ交換のメンテナンスを行う必要がある。

7-3-2-7-2 共存管理

 通信周波数資源は有限であるため有効的な利活用が求められる。同一環境下に実装された複数の無線通信アプリケーションは互いの通信が干渉の要因となるため周波数の共存管理が重要となる。無線ネットワークのライフサイクルにおいて、工場・プラントの設備変更や新たな無線通信アプリケーションの追加など設置環境の電波状況が変更になった場合、再度設置環境の評価を行い周波数の共存管理の見直しを実施することは安定した無線通信を実現する上で重要となる。
 定期的に同じ電波環境指標の状態を監視して管理値内に入っていることを確認する必要がある。

目次へ
ページトップへ