7-2 工場内の無線ネットワークとユースケース

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1. はしがき

 工場では、製造運転、設備保全、安全管理など操業を支える様々な機能が存在する。無線通信において、例えば通信距離と消費電力などはトレードオフの関係にあるなど、すべての要件を満たす通信方式は存在しない、それぞれのアプリケーションに要求に合わせて、適材適所の無線方式を採用する必要がある。
 本編では工場の機能階層別ネットワークの規模を「サイト間無線ネットワーク」、「プラントワイド無線ネットワーク」、「センサ/アクチュエータ無線ネットワーク」に分類の上で、適用する無線技術の特徴を整理し、具体的なユースケースついて解説する。

7-2-2 工場内の無線ネットワークとユースケース

 本項では、工場に導入される各種工業用無線技術を階層化された生産システムに対応した、無線ネットワークに細分化し、適用されている無線技術を整理する。次に、工業用無線に関連する無線規格を整理し、そのユースケースを紹介する。

7-2-2-1 工場内の無線ネットワーク

 工業用無線は個々のユースケースで無線システムに対する要件が大きく異なる。通信速度、リアルタイム性、およびネットワーク接続台数の要件は、実装アプリケーションに密接に関連している。そこで、工業用無線を代表的なアプリケーションに分類し、それぞれの無線システムの特徴と要件、そして具体的な無線方式を解説する。

7-2-2-1-1 サイト間無線ネットワーク

 主に、工場間をつなぐ長距離の無線ネットワークである。工場内の固定設置された機器やシステムだけでなく、車両やモバイルオペレータによるリモートアクセスも可能となる。
 通信装置の接続台数は比較的少なく、地理的なカバレッジが広い。数通信速度は、高いビットレートを達成することもできるが、信頼性の観点では一般的にベストエフォート型の通信となる。遠隔監視のアプリケーション(測定値の散発的な転送など)やリモートメンテナンスに適用される場合が多い。低遅延、時間確定型の通信、即時応答が要求されるリアルタイム性の高いアプリケーションには向かない。
 具体的な無線技術としては、LTE、Wi-MAXなどが挙げられる。これらの無線システムは、基本的にプラント事業者が自営で無線システムを設置するものではなく、キャリアベンダが提供する課金サービスを利用する場合が多い。
 一方、5Gの工場への導入が普及することで、通信容量増大、高速化、同時接続、低遅延の実現により、適用アプリケーションが拡大することが期待されている。

7-2-2-1-2 プラントワイド無線ネットワーク

 この分野は、使用する無線周波数の帯域幅が大きく異なる2つの無線方式に分類することができる。

1)狭帯域無線ネットワーク

 プラント全域にわたり、製造設備や機器の稼働状態のデータを収集してAIで解析して予兆診断に活かすなどのアプリケーションで注目を集めているLPWA(Low Power Wide Area)という無線方式である。端末の監視用無線センサの接続台数が非常に多く、数キロメートルのデータ伝送も可能である。一方で、伝送データのサイズは非常に小さく、伝送速度も遅い。そのため、リアルタイム性を要求する制御、監視のアプリケーションには向かないが、設備の劣化傾向や予兆検知などの予知保全の用途に広く利用され始めている。
 具体的な無線方式としては、無線局免許を必要としないアンライセンス系のLoRaWANやSigfox, ELTRES、ZETAなどがある。また、無線免許が必要なライセンス系のLTE-M、NB-IoTなどがある。
 ここで、多数のLPWA無線方式が存在(乱立)しているのは、現時点で利用者の全てのニーズに応えうるLPWA規格がなく、適用アプリケーションに応じて適材適所でユーザが選択していることが理由として挙げられる。

2)広帯域無線ネットワーク

 複数の制御システム、PCまたはモバイル端末を接続する場合は、無線LANが適切な無線システムになる。この無線システムの利点は、多様なITアプリケーションを使用できることである。例えば、音声や画像、ビデオ映像の伝送など視覚化データの伝送が可能である。
 一方で、機能安全に関わる重要な信号を伝送する場合は、無線システムが安全プロトコルをサポートしていることが不可欠であり、IEC 61784規格に準拠した機能安全プロファイルが求められる。アプリケーションの要件に応じて、空間的な広がりは制限されるが、データ量は非常に大きなサイズとなる場合が多い。
 具体的な無線技術としては、Wi-Fi (IEEE 802.11)やBluetooth (IEEE 802.15.1)などが挙げられる。

7-2-2-1-3 センサ/アクチュエータ無線ネットワーク

 この無線ネットワークは、一般に無線計装と呼ばれるカテゴリの無線技術である。無線ネットワークは、現場に設置された無線計器からゲートウェイ(プロトコル変換機器)を介して他のネットワークに接続される利用形態が一般的である。データサイズが比較的少量であるが、定周期でデータ伝送する(Publish / Subscribe)の通信手順をサポートしており、DCSやPLCに接続してプロセス監視や警報などの比較的リアリタイム性が要求されるアプリケーションにも導入されている。通信距離は、数百メートルであるが中継機能を活かして距離の延長が可能である。
 これまでは、センサやアクチュエータのベンダが異なる場合はデバイス間の相互運用性が確保されていなかったが、無線通信方式の国際標準化により、現在は、相互運用性のある、複数の無線規格がある。
 代表的な国際標準規格の無線方式として、ISA100 Wireless (IEC 62734)とWirelessHART (IEC 62591)がある。

工場内の各種無線ネットワーク

図7-2-2-2-1-3 工場内の各種無線ネットワーク

7-2-2-2 無線規格

 図にOSIモデルと工業用無線の標準化の関係を示す。

OSIモデルと工業用無線の標準化の関係

図7-2-2-2 OSIモデルと工業用無線の標準化の関係

1)IEEE 802規格

 工業用無線のうち免許不要で利用可能な無線通信方式の物理層とデータリンク層の仕様は、IEEE 802が標準化を担当している。図にIEEE 802の規格一覧を示す。

IEEE 802 規格階層

図7-2-2-2-2-1 IEEE 802 規格階層
(IEEE 802 LAN/MAN Standards Committee http://www.ieee802.org/参照)

2)フォーラム規格

 Standards Developing Organization(SDO)や産業コンソーシアムは、工業用無線のアプリケーション毎の要件に対応するためにIEEE 802の規定した物理層とデータリンク層を参照し、一部のデータリンク層の仕様追加を含むネットワーク層からアプリケーション層までのフルスタック構成の無線通信仕様を標準化している。さらにマルチベンダによる相互運用性を確保するために適合性評価の認証サービスを実施している。コンソーシアムの例として、Wi-Fi Alliance(Wi-Fi規格)、Feld Com Grope(FCG):Wireless HART規格、ISA100 Wireless Compliance Institute(ISA100WCI):ISA 100.11a規格などがある。

3)IEC国際規格

 IEC (国際電気標準会議)の専門委員会TC65(工業用プロセス計測制御)は、プロセスオートメーション向けの工業用無線規格の国際標準化を行なっている。上記のフォーラム規格のうち、WirelessHARTはIEC 62591、ISA100.11aはIEC 62734として国際規格化されている。その他にも中国から提案のWIA-PAはIEC 62601、WIA-FAは、IEC 62948として国際規格化されている。

4)ITU-R国際規格

 無線ネットワーク設計等で利用される電波伝搬モデルは、ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)にて標準化が行われている。

7-2-2-3 無線通信方式の比較

 無線技術の進歩により、新しい無線通信方式が次々と登場している。工業用無線の導入に際しては、適用アプリケーションの要件に合った適切な無線方式を選定することが重要となる。図に無線方式の選定の参考として通信距離と消費電力/通信速度で比較した位置付けの関係を示す。

無線通信プロトコル

図7-2-2-2-3 無線通信プロトコル

 無線ネットワークには、大きく分けてWPAN(Wireless Personal Area Network)、WLAN(Wireless Local Area Network)、WMAN(Wireless Metro Area Network)、LPWA(Low Power Wide Area-network)の4つの形態がある。それぞれは距離によって区別され、利用形態や使用する製品も大きく異なってくる。

1)WPAN

 WPANは、一般に10m未満の至近距離をカバーする無線ネットワークで、周辺機器などの接続に用いられることを念頭に置いてる。現在は工業用無線センサ用途の技術としても採用されており、実装技術の向上により、通信距離は100m~500mとなっている。

2)WLAN

 WLANは、すでに利用しているユーザが多く、広く市場に普及している。カバー範囲は建物内や同一フロア、遮へい物のない状態で50~100mとなっている。

3)WMAN

 WMANは、中距離無線LANなどとも呼ばれるネットワークのことで、数km~数十kmの範囲をカバーする。WWANは主に携帯電話など、移動体通信規格を総称して1つのカテゴリとして呼ぶ場合に使用されることがある。

4)LPWA

 LPWAは、省電力かつ長距離での無線通信が可能という特長をもった通信技術の総称である。消費電力は、電池1つで数年単位の稼働も可能なほど省電力を特徴とするが、通信速度は、上記の無線規格と比較すると低速である。一方で通信距離は、通信環境にもよるが、数km~数十kmの長距離伝送を実現できる。

7-2-2-4 ユースケース

 工業用無線の導入にあたり、適用するアプリケーションの要件に合わせて利用周波数帯、通信距離、最大接続数、ネットワーク構成などの仕様を鑑み無線規格を選定する必要がある。表に、主に工業用途で用いられる無線方式・規格の仕様と代表的な利用用途の一覧を示す。

表7-2-2-2-4-1 無線ネットワーク/無線規格とユースケースの比較
無線ネットワーク/無線規格とユースケースの比較

 図に無線通信方式と工場におけるユースケースを示す。それぞれの無線方式は、その特徴を理解した上で、工場内の各種アプリケーションに適用することが肝要である。工業用無線の導入時の具体的な無線方式の選定方法は、後述の「3. 工業用無線の導入」に記す。

無線通信方式と工場でのユースケース

図7-2-2-2-4 無線通信方式と工場でのユースケース

 ISA100.11aやWirelessHART、BLE(Bluetooth Low Energy)、ZigBeeなどの無線方式は、低消費電力動作が特徴であり、バッテリで数年の動作が可能となる。そのため、フィールド機器のセンサやアクチュエータに搭載し、計測・自己診断データを無線伝送する用途に適している。具体的には、温度、圧力などのプロセス値のリモート監視、振動や加速度の計測データによる設備の予兆検知や診断、ガス検知器による配管の漏洩検知など、プラントの運転、保全、安全管理を目的としたフィールドデータの監視、収集に適している。
 Wi-Fiは、一般家庭やオフィスでも広く利用されており、高速に大量のデータを伝送することができる。この特徴を活かし、工場の巡回点検時の現場作業支援ツールとして、スマートフォーンやタブレットなどのモバイル端末の通信手段として広く利活用されている。ただし、防爆規格対応や防塵防滴の仕様など利用環境に応じた堅牢性を備えた仕様の製品選定にも留意する必要がある。
 LPWAは、低消費電力で長距離伝送を特徴としている。一方で、データ伝送の即時性の観点からは、他の無線技術に劣る。そのため、配管の腐食診断やメータの検針など、通信速度や遅延の要件が厳しくない工場設備の状態のリモート監視などの用途に向いている。最近では、工場設備の状態をビッグデータ解析するためのIIoTセンサの無線方式として注目されている。
 4G/LTE/5Gは、セルラーネットワーク網を利用した無線方式であり、スマートフォーンやタブレットなどの情報通信端末に実装され広く普及している。導入に際しては、通信キャリアと契約して課金による利用形態と、通信事業者としてライセンスを取得し、工場の敷地内に基地局を設置して特定エリアの独自無線ネットワークの構築を可能とするローカル5Gなどがある。最近では、国内においてもローカル5Gの実証実験が盛んに行われている状況である。

表7-2-2-2-4-2 無線方式の比較
無線方式の比較

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